構成・文・イラスト:粟津 順(CGクリエイター・映画監督)

第1回 Introduction

3DCGアニメーションってなに?

●そもそも3DCGとは

3Dはかせ

わたしの研究室にようこそ。3Dはかせです。
今回から8回にわたって、3DCGアニメーションの魅惑の世界を、助手見習いのわかばちゃんと一緒に探っていきます。

わかばちゃん

わかばちゃんだよ!3Dはかせ、ヨロシク〜

3Dはかせ

よろしく、わかばちゃん。わかばちゃんは3DCGアニメーションが作りたくてこの研究室に来たんだよね?

わかばちゃん

うん。そういう設定だよ!

3Dはかせ

3DCGアニメーションの経験は?

わかばちゃん

まったくないよ。

3Dはかせ

なるほど、まったくの初心者というわけですね。では、わかばちゃんは、3DCGアニメーションがどういうものか知ってますか?

わかばちゃん

わかりません!!

3Dはかせ

自信満々に言いましたけど、わからないんですね。
ではまず、「3DCG」がどういうものかというところから説明しましょう。3DCGとは3 Dimensional Computer Graphicsの頭文字を組みあわせて短縮した言葉で、日本語でいうと「三次元コンピューターグラフィックス」ということになります。

わかばちゃん

コンピューターグラフィックスって、コンピューターをつかってお絵かきすることでしょ?わかばちゃん、それくらいは知ってるんだけど、「三次元」ってなに?どゆうこと?

3Dはかせ

そもそも、コンピューターグラフィックスには、大きくわけて2DCG3DCGがあります。2DCGは二次元コンピューターグラフィックスで、「高さ」と「幅」をもった二次元の空間にグラフィックスを描いていきますが、3DCGは「高さ」と「幅」と「奥行き」をもった仮想的な三次元空間に立体のグラフィックスを描いていきます。

わかばちゃん

カソウテキ? もっと簡単に言ってほしいかも…。

3Dはかせ

ひとことで言えば、2DCGは「平面」の絵で、3DCGは「立体」の絵ということです。立体の絵、というのはちょっとヘンな言い方ですが、いろいろな方向から見ることができる絵、というぐらいに今は思っておいてください。

わかばちゃん

ほーい。

3Dはかせ

少しだけ歴史に触れておくと、コンピューターグラフィックスは1940年代にアメリカで誕生した技術です。当時はまだ2DCGしかなく、3DCGは1960年代の終わりから登場します。3DCGは、最初はフライトシミュレーター用の技術として使われていました。

わかばちゃん

わかばちゃんもフライトシュミレーションゲームならやったことある!

3Dはかせ

「シュミレーション」ではなく「シミュレーション」ですよ。
3Dのゲームをやったことがあれば、話は早いです。キャラクターを自由に操作できたり、視点をグリグリ動かすことができる3Dゲーム、その画面に表示されているものは基本的にすべて3DCGです。

わかばちゃん

なるほど!いまので90%ぐらいわかった気がする。

3Dはかせ

1970年代以降、驚くほどの速度で進化をつづけてきた3DCGは、現在では、フライトシミュレーターや科学の研究分野でのシミュレーションをはじめ、機械や建物などの設計、CTスキャンなどの医療、テレビCMなどのコマーシャル関係、ゲームや映画などの娯楽などなど、じつに多くのシーンで活用されています。

わかばちゃん

ふえ~。すごいんだね、3DCGって。

3Dはかせ

3DCGがどういうものか、だいたいわかりましたか?

わかばちゃん

わかった気がする!

●3DCGアニメーションとは

3Dはかせ

では、今回のいちばん大事な話題に入っていくとしましょう。
3DCGアニメーションとはなにか。それが今回の本題です。3DCGアニメーションという言葉は「3DCG」に「アニメーション」という言葉がくっついています。「3DCG」の意味はさきほど見てきましたが、では「アニメーション」とは、なんでしょうか?

わかばちゃん

そんなの簡単だよ。アニメのことでしょ?

3Dはかせ

ちがいます。アニメとアニメーションは別物です。

わかばちゃん

え~っ。そうなの?

3Dはかせ

「アニメ」という言葉は、日本の商業アニメーション作品を指して使われることが多い言葉です。海外の人が「Anime」という場合は、ほぼ100%日本のアニメーション作品のことです。日本の、とくにテレビアニメは、歴史的経緯によって世界的に見てもかなり特殊なスタイルのアニメーションに進化しました。だから、海外のアニメーションとはっきり区別しておいたほうがいいでしょう。
それに対して「アニメーション」という言葉は、アニメという言葉よりもっとずっと広い使い方をします。アニメーション作品のことをいう場合もあれば、「アニメーションする」というふうに動詞として使うこともあります。

わかばちゃん

じゃあ、アニメっていうより、アニメーションっていったほうがいいのかな?

3Dはかせ

というよりも、使いわけをしたほうがいいでしょうね。テレビアニメを示すときは「アニメ」、それ以外は「アニメーション」と。 それを踏まえてもう一度質問しますが、アニメーションってなんだと思いますか?

わかばちゃん

えーと、うーんと……

3Dはかせ

大きなヒントを出しましょう。アニメーション(animation)という言葉の仲間にアニメート(animate)という言葉がありますが、その意味を考えるとわかるかもしれません。

わかばちゃん

アニメート?アニメグッズのお店?

3Dはかせ

アニメート(animate)は「生命を吹き込む」という意味の英語で、語源は「魂・生命」を意味するアニマ(anima)というラテン語です。つまり、生命が存在しないものに生命を吹き込み、まるで生きているように見せるのがアニメーションです。

わかばちゃん

生命を吹き込むってどゆこと?わかばちゃん、そんな超能力もってないよ?

3Dはかせ

超能力は必要ありません。逆に質問しますが、わたしたちが、なにかを見て「生命」があると感じるのはどういうときですか?

わかばちゃん

動いてるものを見たときとか、かな?動物とか。

3Dはかせ

正解です。動物を意味するアニマル(animal)も、じつはアニマ(魂・生命)が語源なんです。
生命を吹き込む(アニメートする)ということは、動きを与えるということにほかなりません。動きを与える対象は、手描きの絵に限らず、人形でもいいし、粘土でもいいし、もちろん3DCGでもいいのです。

わかばちゃん

わかった、じゃあ、3DCGアニメーションていうのは、動きがついた3DCGのことだ!

3Dはかせ

正解です。動く3DCGはすべて、広い意味での3DCGアニメーションと呼んでさしつかえないでしょう。
しかし、もっと狭い意味での3DCGアニメーションもあります。この講座でわたしたちが探っていくのは、じつはこちらのほうの3DCGアニメーションなのです。

わかばちゃん

せまい意味の3DCGアニメーション?どゆこと?

3Dはかせ

正確に言うなら「3DCGアニメーション映画」ということになるでしょうか。

わかばちゃん

映画って、映画館でやってるあれのこと?

3Dはかせ

もちろんあれも映画ですが、しかし、あれは映画のなかのごく一部の作品です。映画というのは、ある特定の芸術スタイルで作られた芸術作品をすべてそう呼びます。

わかばちゃん

ゲ、ゲイジュツ…??話が急にむずかしくなってきてよくわかんないよぉ~

3Dはかせ

芸術というものを特別むずかしく考える必要はありません。わかばちゃんは、道具をいくつか持ってますよね?

わかばちゃん

道具っていうと、ハサミとか?

3Dはかせ

そうです、ハサミとか鉛筆とかハンマーとかです。そういったものは何かの目的のために「使う」ものですよね?

わかばちゃん

うん。ハサミなら紙を切るとか、鉛筆なら字を書くとか。

3Dはかせ

人間が作りだすものは大きくわけて「使うもの」と「使わないもの」に分類することができます。道具は「使うもの」です。だから、普通はハサミをじーっと眺めて「う~ん、すごくいい輝き!」とか、その音を聴いて「うわ~、すごくいい音!」と感動することはありません。そういう人もいるかもしれませんが。
でも、人間が作りだすモノのなかには、「使う」ためではなく、ただ「見るだけのもの」や、ただ「聴くだけのもの」がありますよね?

わかばちゃん

うん。絵とか、音楽とか……

3Dはかせ

そうです。絵や音楽に共通するのはなんでしょう?いろいろあると思いますが、わたしは次のように言ってみたいと思います。人間が生きるうえでは別に無くても生きられるけど、この世界から無くなるとたぶんすごく寂しいもの、と。

わかばちゃん

そっか、それを芸術っていうんだ。

3Dはかせ

はい。だから、絵画も音楽ももちろん芸術ですし、文学や演劇やダンスも芸術です。映画も芸術です。
映画は、もともと演劇をカメラで撮影するという形からスタートしました。だから、演劇と写真というふたつのルーツをもっているということになります。最初はサイレントといって音やセリフがないものでしたが、のちに音楽がつき、セリフの音声がついたトーキーへと進化しました。
現在の映画にはいろいろな種類のものがあり、まず大きくわけると、脚本がある劇映画と、脚本がないドキュメンタリー映画に分類できます。劇映画のなかにも、大きくわけて実写映画とアニメーション映画があります。3DCGアニメーション映画は、アニメーション映画のなかに含まれます。

わかばちゃん

zzzzz……

3Dはかせ

わかばちゃん。聴いてます?

わかばちゃん

え。あ。き、聴いてます聴いてます。映画ってホントウにイイもんですねぇ!

3Dはかせ

ですから、3DCGアニメーションを作る場合には、かなり多くの部分で、先輩である「映画」や「アニメーション映画」の文法や表現方法を利用させてもらうということになります。

わかばちゃん

じゃあ、映画は観たほうがいいの?

3Dはかせ

古今東西のいろいろなジャンルの映画を積極的に観たほうがいいですね。どんな出来の悪い映画でも、なにかしら参考になる部分は必ずあるものです。

わかばちゃん

わかった。たくさん観るようにする。

3Dはかせ

今までの話で、3DCGアニメーションがどういうものであるか、わかってもらえたのではないかと思います。
が、わたしからひとつ、付け加えておきたい重要なポイントがあります。それは、3DCGアニメーションは、実写やセルアニメ(手描きアニメ)の代用品ではない、ということです。

わかばちゃん

ん?どうゆう意味?

3Dはかせ

いえ、実際、代用品として使われることが多いのは事実です。実写映画では、現実に撮影できない風景やキャラクターやアクションを作るために利用されたり、テレビアニメでも背景やメカやダンスシーンなどによく使われています。それらが悪いということではまったくないのですが、3DCGアニメーションというのはそのような限定的な利用方法以外にも、もっと自由な表現の可能性があるものだと、わたしは考えています。

わかばちゃん

ようするに?

3Dはかせ

ようするに、もっと自由にやっていい、ということです。

わかばちゃん

自由すき!わーい。

●3DCGアニメーションの制作の流れ

3Dはかせ

さて、3DCGアニメーションとはなにか、ということが理解してもらえたと思うので、つぎに、実際に3DCGアニメーションはどのように作るのか、その流れを見ていくことにしましょう。

わかばちゃん

へーい。

3Dはかせ

ちなみに、今回説明するのは一般的な3DCGアニメーションの短編作品の場合ですが、基本的な流れは短編でも長編でもほとんど同じです。

わかばちゃん

短編ってどのくらいの長さをいうの?

3Dはかせ

明確に決まっているわけではないのですが、30分以内を短編と呼ぶことが多いようです。
ただ、3DCGアニメーションの場合、30分でも制作がかなり大変なので、初心者はまず3分程度の作品を作ることをオススメします。

わかばちゃん

3分でも作るの大変そう。

3Dはかせ

大変なのは確かです。でも、完成までの手順をしっかり把握したうえで、「絶対に完成させるぞ~!」という強い意気込みをもって臨めば、けっして不可能なことではありません。もちろん、精神論だけではどうにもならない部分も多いので、合理的な方法論を学ぶことは必要不可欠です。勉強することはたくさんありますが、勉強を「新しいことへの挑戦」ととらえて、積極的に楽しむつもりで臨むのがコツです。

わかばちゃん

わかった。がんばってやってみる!

3Dはかせ

その気持ちを忘れないでくださいね。
3DCGアニメーションの制作の流れは、一般的には次のような3つの大きな段階に分かれています。「プリ・プロダクション」「プロダクション」「ポスト・プロダクション」という3つの段階です。
しかし、これらの呼び方はあくまでも一例で、呼び方が異なる場合や、3つではなく4つに分けるという場合もあります。

わかばちゃん

完成までにどのくらいの期間かかるの?

3Dはかせ

どういう作品を作るかによってもちろん異なりますが、3分の作品でも普通は3ヶ月以上かかります。

わかばちゃん

え~っ。そんなにかかるものなの?

3Dはかせ

かかります。ですから、スケジュールをきっちり立てて作業を進めることが大事ですよ。

わかばちゃん

ごはんはいつ食べるの?

3Dはかせ

おなかが空いたらガマンせずに食べてください。説明、続けますよ。
プリ・プロダクション」は具体的な制作作業に入る前の準備段階で、作品のアイデアを考えたり、ストーリーを作ったり、キャラクターのデザインをしたり、絵コンテを描いたりする段階です。
プロダクション」は、プリ・プロダクションでの準備をもとに実際の3DCGアニメーションを作っていく段階です。工程は細かく複雑にわかれていますが、大きく言うと、モデリング、キャラクター・セットアップ、アニメーション、ライティング、レンダリング、という感じにわかれています。
ポスト・プロダクション」は、作品の仕上げの段階です。ここではコンポジットや、編集作業や、音楽や声を入れる作業をおこないます。

わかばちゃん

トイレはいつ行くの?

3Dはかせ

行きたくなったらガマンせずに行ってください。

わかばちゃん

う~ん、説明を聴いてもゴチャゴチャしていてよくわからないよ~

3Dはかせ

それならば、本棚を作る作業にたとえて説明しましょう。
本棚を作るとき、いきなり木材をノコギリで切ったりせず、まず最初は、どのような本棚にするかスケッチを描いたり、設計図を描いたりしますよね。この段階が、プリ・プロダクションです。
設計図が描けたら、木材をノコギリで切ったり、釘や接着剤でくっつけたりして、実際の本棚の形を作っていきます。この段階が、プロダクションです。
本棚の形ができたら、仕上げとしてサンドペーパーをかけて表面をきれいにしたり、ニスを塗ってツヤを出したりして完成させます。この段階がポスト・プロダクションです。

わかばちゃん

なんとなくわかった。

3Dはかせ

プリ・プロダクション、プロダクション、ポスト・プロダクション、それぞれの段階に含まれる細かい工程については、次回から詳しく説明していきます。

わかばちゃん

ついていけるか心配だよ~

3Dはかせ

可能な限り噛み砕いて説明していくつもりなので、頑張ってついてきてくださいね。

わかばちゃん

ほーい。

3Dはかせ

今回はこれで終わりにしたいと思います。が……。

わかばちゃん

が?

3Dはかせ

宿題を出します。

わかばちゃん

え~っ、宿題!?

3Dはかせ

次回は約1ヶ月後の予定ですが、それまでに自分がどんな作品を作りたいか、少し考えておいてください。

わかばちゃん

急にいわれても、そんなのわかんないよ~

3Dはかせ

いやいや、次回に急に言わないために、今回、前もってこうして言っているんです。
具体的なものを決める必要はありませんので、なんとなく、方向性だけでも考えてみてください。

わかばちゃん

うーん……

3Dはかせ

笑える感じとか、悲しい感じとか、こわい感じとか、カッコイイ感じとか、カワイイ感じとか……、そういう「感じ」だけでもいいです。これから自分が作品を作るとしたらどんな感じのものが作りたいか、どんな感じのものを作ると自分が楽しくなれるか、自分の心のなかのボンヤリしたイメージをとらえてみてください。とりあえずは漠然とした雰囲気だけで構いません。

わかばちゃん

わかった、やってみる。

3Dはかせ

次回から、プリ・プロダクションの工程に入っていきます。最初は、ストーリーを考えるところからです。ストーリーは作品にとって非常に重要な要素ですので、わたしも頑張って解説したいと思います。
では、今回はここまでです。わかばちゃん、お疲れ様でした。

わかばちゃん

おつかれさまでした~

第2回・Pre-production 01【ストーリーを作ろう】は5月下旬頃のアップロード予定です

第2回 Pre-Production 01

ストーリーを作ろう

●アーティストの視点をもとう

3Dはかせ

こんにちは。3Dはかせです。

わかばちゃん

こんにチワワ! わかばちゃんだよ。

3Dはかせ

今回は、3DCGアニメーションにおける「ストーリー」について考えてみたいと思います。

わかばちゃん

ほーい。

3Dはかせ

アニメーション作品を作る場合、ストーリーだけを独立して作るということは普通はしません。「キャラクター」や「環境」といっしょに考えていくものであります。ストーリーとキャラクターと環境は、たがいに密接に関係しあっているものなので、本来は切り離して語ることができないものです。けれども、全部を一度に説明するとたいへん時間がかかってしまいますので、今回はストーリーを中心的にとりあげることにします。

わかばちゃん

了解で~す。

3Dはかせ

まず、頭の準備体操をしましょう。ストーリー作りよりももっと前に、つまり作品の構想(アイデア)を練りはじめるいちばん最初に考えておきたい非常に大切なポイントがあります。それは、自分の、すなわち作者の「視点」をどこに置くかということです。

わかばちゃん

シテン? お店を出すの?

3Dはかせ

出しません。視点というのは、どこから物事を見るか、ということです。日常生活をしながら普通に世のなかをながめていて自然に作品が生まれてくるということは、まずありません。ですから、作品を作りたいのであれば、意識的に作品が生まれやすい視点をもつ、という姿勢が必要になります。

わかばちゃん

どうするの?

3Dはかせ

わたしは、そういう視点のことを「アーティストの視点」と呼んでいます。作品には「作る人」と「受けとる人」がいます。「作る人」のことをこの講座ではアーティストと呼ぶことにします。アーティストになるための条件は、まあいくつかありますが、もっとも大切なのがこの「アーティストの視点」をもつということです。

わかばちゃん

それ、わかばちゃんももてるの?

3Dはかせ

はい。ずーっと離れた場所から世のなかを見ればいいのです。

わかばちゃん

はなれた場所って、空の上とか?

3Dはかせ

ちがいます、そういう物理的な話ではありません。「意識」を、日常から離れたずっと遠くに移動させるのです。

わかばちゃん

えっ? ど~やって??

3Dはかせ

失礼。順番に説明していきますね。
だれでも普通、意識をもっています。意識というのは、ここでは、さまざまな感覚を受けとめたり、ものを考えたりする心のなかの場所という意味だと理解しておいてください。わたしたちのそれぞれの意識は、それぞれの「世界」に住んでいます。

わかばちゃん

それぞれの世界? 世界は一個じゃないの? 地球はヒ・ト・ツ♪

3Dはかせ

世界は一個ではないんです。たとえば、わたしたちは「あの人は住んでる世界が違うから」というような言いかたをしますよね? 人間というのはそれぞれが別々の世界に住んでいる、と考えることができるのです。
人間がそれぞれにもっている世界を、その人の「世界像」と呼びます。

わかばちゃん

でもさでもさ、みんな別々の世界に住んでるっていっても、リンゴはリンゴで、ネコはネコで、信号は赤・黄・青なんじゃないの? だれが見ても。リンゴがモモで、ネコがウサギで、信号がピンク・紫・白に見えてる人なんているのかなぁ?

3Dはかせ

いいところに気づきましたね。「世界像」は人それぞれまったくちがうというものでもなく、じつは土台の部分の大半は重なっています。わたしたちが、はじめて会った人ともそれなりに話ができてしまうのは、そういう理由です。しかし一方で、まったく重なり合わずに異なっている部分も、けっこうあります。

わかばちゃん

重なったり、ズレたり。なんでだろう?

3Dはかせ

重なる理由のひとつは、学校があるからです。とくに義務教育のための小中学校は、社会のシミュレーターとしての機能があるのです。学校は、子どもたちの「世界像」を社会にあわせて形作っていく場所と言うことができるでしょう。

わかばちゃん

学校ってそういうところなんだ。

3Dはかせ

はい。しかし、学校で作られるのはあくまでも「1つ目の世界像」です。学校とは別のところで、わたしたちは何らかのキッカケで「2つ目の世界像」に出会います。学校では教えられなかった別の世界が存在することを知り、自分の意識のなかで価値観の書きかえが起きます。それは衝撃的でもあり、また魅力的な経験です。

わかばちゃん

わかる! 学校では、すっごくおもしろいアニメやゲームがあること教えてくれないもんね!

3Dはかせ

出会うものは、アニメやゲームでも、音楽や演劇や文学や思想でもなんでもいいのですが、とにかく自分がとんでもなく強い感銘を受ける体験をしたとき、人は「別のすごい世界」があるということを知ることになるわけです。2つ目の世界像は、それに出会った本人にとって「最高のあこがれの世界」と言えるものです。

わかばちゃん

その「別のすごい世界」に行くってことが、アーティストになるってことなの?

3Dはかせ

いいえ、そうではありません。世界像は2つだけじゃないんです。じつは「3つ目の世界像」というものが存在するのです。

わかばちゃん

えっ。いっぱいあるの!?

3Dはかせ

いいえ、3つ目でおしまいです。ホップ・ステップ・ジャンプのようなものです。3つ目の世界像は、2つ目の出会いとはかなり異質なもので、それは「最高のあこがれの世界」と思ったものが、じつは「たくさんある最高のうちのひとつ」だということに気づくことなんです。ちょっとむずかしい言いかたでいうと、こういうのを「相対化」といいます。相対というのは「絶対」の反対の意味です。
世の中の「価値あるもの」は、それに価値を見出した人にとっては間違いなく価値があるのですが、そうではない人にとっては価値はありません。自分が絶対だと思っていた価値が、じつは他の人にとっての絶対ではなかったと気づくこと。そして同時に、世のなかのどんな価値も相対化されうるものだということに気づくことが、3つ目の世界像の中身です。

わかばちゃん

え~と。最高がじつは最高じゃない、ってこと?

3Dはかせ

いえいえ、「自分にとっての最高」は最高のままです。自分のなかの最高が消えるわけでも変わるわけでもありません。
自分が最高だと感じたときのその感動は、まぎれもなく自分自身が直接経験した感動であり、疑うことができない絶対的なものです。それは、自分自身の存在を疑うことができないのと根っこは同じです。ただし、その絶対的な効力の範囲は自分のなかだけなのです。
3つ目の世界像をもったときに起きる「世界の相対化」は、同時に「自分自身の相対化」でもあります。自分を相対化するというのは、絶対的に疑えない自分を保ったまま、しかし同時に、最高は一個じゃない、たくさんの最高があって自分は「たまたま」そのうちの最高の一個を選んだのだと理解することです。
これが、日常から遠く離れるということ、つまり、これがアーティストの視点をもつということなのです。

わかばちゃん

うーん、なんとなくはわかったんだけど、でも、わかばちゃんにはムズカシイかも……

3Dはかせ

ようするにですね、いままで「これが当たり前」「これが常識」「これが唯一の最高」と思いこんでいたアタマを一回すてて、まっさらな心で世のなかと向きあってみよう、ということです。もっと簡単に言うと、学校に行く前の子どものように思いっきり自由になろう、ということです。

わかばちゃん

そっか、アーティストって子どもなんだ!

3Dはかせ

心のなかはそうですね。アーティストの視点に立つということは、考えうるもっとも自由な視点で世のなかや人々や物事を見るということなのです。

●ストーリーとは……

3Dはかせ

準備運動はこのくらいにして、ストーリーを作るという今回のもっとも中心的な話へと入っていくとしましょう。
ところで、わかばちゃん、宿題はやってきましたか?

わかばちゃん

うん! 言われたとおりに、ボンヤリしたイメージをつかまえてきたよ。

3Dはかせ

どんなイメージをつかまえることができましたか?

わかばちゃん

うんとね……。フワフワした感じ!

3Dはかせ

フワフワ。なるほど。それはまたずいぶんフワフワしてますね。
それだけですか?

わかばちゃん

うん!

3Dはかせ

まあいいでしょう。作品を作るというのは、言ってみれば、心のなかのフワフワした「感じ」に具体的な「形」を与えるということです。では、どのように形を与えていくのでしょうか。その方法についての話をするまえに、ひとつ確認をしておきましょう。
わかばちゃん、そもそも「ストーリー」とはなんだと思いますか?

わかばちゃん

物語じゃないの?

3Dはかせ

それは日本語に言い換えただけですよね。
まず第一に、ストーリーが共通してもっている性質を取りだして言うなら、時間によって状態が変化していくということです。つまり、なんらかの「変化を伝える」のが、ストーリーのもっとも基本的な役割です。

わかばちゃん

じゃあ、「起きました。ご飯食べました。トイレ行きました。寝ました。おわり」でもいいの?

3Dはかせ

それも、まあストーリーには違いありませんけど、わたしは、ストーリーにはもうひとつ別の重要な役割もあると思っています。それは、そのストーリーを受けとった人に、なんらかの「変化を体験させる」という役割です。もう少しくわしく言いましょう。ストーリーを受けとる前のAさんと、ストーリーを受けとったあとのAさんは、外見的にはほとんど変化しませんが、内面、つまり心のなかの状態が変化していることが、アーティストにとって望ましいのです。こういう変化のことを一言で表現すると「感動」という言葉になるでしょうか。

わかばちゃん

わかばちゃんも、感動するお話とかすき。映画館でけっこう泣いちゃうんだよね。

3Dはかせ

それはいいのですが、「感動的なストーリー」を「泣かせるストーリー」という狭い意味だけでとらえないように注意してくださいね。人間の「喜怒哀楽」といった感情にうったえかけるストーリーはすべて感動的ですし、感情ではなく知性や理性、つまりアタマを揺さぶるような考えさせるストーリーも、広い意味で感動的といっていいと思います。
大昔の人は、そういう感覚を「カタルシス」という言葉で呼びました。カタルシスは「浄化」という意味で、ようするに物語にふれることで心がスッキリする感じをそう呼んだわけです。現代でもよく使う言葉なので覚えておくといいですよ。
ともかく大切なのは、ストーリーを受けとった人が変化するストーリーを作るということです。

わかばちゃん

どうすればいいの?

3Dはかせ

それをこれから考えていきましょう。じつは、いまお伝えした「カタルシス」という言葉には、えー…、少々きたない話で申し訳ないですが「排泄」という意味もありまして、それはつまり、トイレでお腹にたまったモノを出すという意味です。出すとスッキリしますよね。ですから、わたしたちはほぼ毎日カタルシスを体験していると言えます。

わかばちゃん

うんち!!

3Dはかせ

大声で言わなくていいです。わたしは、お腹にたまったモノを出すとスッキリする、という真実のなかに、ストーリー作りの大きなヒントが隠されていると思うのです。とくに、便秘のときなどは出たときのスッキリ感は尋常ではありません。便秘は苦しいですが、出るモノが出ると、苦しさは消えて、スッキリ、つまり感動がやってくるわけです。
フザケて言ってるわけではありませんよ。少々乱暴な言いかたをすれば、ストーリー作りの極意とは、受けとる人のなかにワザと便秘状態を作りだしてやり、そのたまって苦しい状態から解放してスッキリさせてあげることなのです。

わかばちゃん

なるほど! でも、便秘にするにはどうすればいいの?

3Dはかせ

便秘というのを、なんらかのトラブル、なんらかの問題と、置きかえて考えてみてください。

わかばちゃん

うん。

●テーマとコンセプト

3Dはかせ

わかばちゃんは、世のなかはトラブルや問題だらけだと思いませんか?

わかばちゃん

えっと、うん、まあ、たしかに……

3Dはかせ

どうしてトラブルが生まれるのでしょう?

わかばちゃん

悪いひとがいるからじゃない?

3Dはかせ

いま、わかばちゃんは落とし穴に落ちました。いいですか、ストーリーを作るうえでとても重要なことなのですが、キャラクターを善人と悪人とにわけて、両者を戦わせて、善人が勝って悪人が負けてメデタシメデタシ、というストーリーはいちばん作ってはいけないタイプのものだと覚えておいてください。

わかばちゃん

え~っ、どうして? わかりやすくていいじゃん。

3Dはかせ

大昔はそれで良かったのです。先ほどの「3つの世界像」の話を思い出してください。
むかしの階級社会や封建社会のなかで生きていた人たちは、ほとんどの場合「1つ目の世界像」のなかだけで暮らしていました。むかしは自分が生まれた村のなかで一生を過ごす人が大半だったので、村のみんながひとつの同じ世界像を共有していればなんの不都合もなかったのです。そういう世界像は、神話や言い伝えという形で語りつがれていました。
人間を、善人と悪人とに単純に二種類にわけて考えるのは「1つ目の世界像」の段階では有効なのです。なにが善で、なにが悪か、最初から決まっているほうが社会にとって都合がいいし、実際に長いあいだそれで問題はありませんでした。が。

わかばちゃん

が?

3Dはかせ

しかし、時代が近代になり、階級が消滅して人々が自由に都市や国のあいだを移動するようになると、世界像どうしがぶつかりあうようになってきました。それぞれの人たちの出身地の世界像がそれぞれ異なっていたからです。そういう混乱のなかから次第にできていったのが「2つ目の世界像」です。でも、人間というのはもっている欲望がバラバラですから、ひとつにまとまるということはなく、自分こそは正しいと主張する「2つ目の世界像」があちこちにできました。それぞれの世界像(グループや派閥)が自分たちこそが「善」であると主張し、敵対する相手を「悪」と決めつけ、殺し合いや戦争を繰り返しました。

わかばちゃん

そっか。善とか悪ってセカイゾーによってちがうんだね。

3Dはかせ

はい。ですから「3つ目の世界像」が必要になったのです。「2つ目の世界像」は、それぞれが自分の絶対的な立場を主張します。つまり、自分がイチバンだと言いはります。でも、それは必ず争いを生みだします。それに対し「3つ目の世界像」は、モノのとらえかたはいろいろあるのだと認める立ち位置です。ある人にとっての「善」が、別の人にとっては「悪」であったり、ある人の「ホンモノ」が、別の人には「ニセモノ」だったりする、つまり絶対的な基準(ものさし)はどこにもなく、人の欲望や利害関係によって変わりうるものだ、ととらえる立ち位置です。

わかばちゃん

でも、やっぱり善とか悪って、あるような気もするけどなぁ…。う~ん。よくわからなくなってきちゃった……

3Dはかせ

そう、それ。それですよ、わかばちゃん!

わかばちゃん

へ?

3Dはかせ

その「わからない」というのが、ストーリーを作るときの第一歩なのです! アーティストが、簡単には解けない問題にぶつかったとき、それはひとつの「テーマ」をもったということなのです。

わかばちゃん

テーマ?

3Dはかせ

テーマとは、作品のいちばん根っこに置かれるものであり、アーティストにとっての「問題意識」のことです。それはまず、ちょっとした「疑問」や「違和感」や「モヤモヤ」としてアーティストの心のなかに生じて、やがてだんだん大きくなっていきます。作品を作るということは、それをつかまえて明確な形をあたえる試みだと言っていいでしょう。
最初から「答え」がハッキリしているような題材でストーリーを作っても意味がありません。むしろ、答えがよくわからないような「問い」をテーマにすることで、作る意味のある、つまり人に見せる意味のある作品になるのです。アーティストとして生きるということは「3つ目の世界像」のなかで生きるということなのですが、その世界は明確な「答え」が存在しない世界なのです。

わかばちゃん

なんか、むずかしいよ~

3Dはかせ

次回お話する予定のキャラクターの話題を先取りする形になりますが、キャラクターたちのなかでもとくに「主人公」というのは特別なキャラクターで、アーティスト自身といっても過言ではない重要な存在です。正確に言えば、アーティストからテーマを託された存在、つまり、問題を解くという大きな目的をもって行動するように定められた、作者の分身(アバター)的な存在です。

わかばちゃん

う~ん、テーマというのがよくわからない…

3Dはかせ

のちほど、テーマのとらえかたのポイントをお教えしますので、いまはよくわからなくても大丈夫です。ですが、その前にもうひとつ大切な話をしておきます。
テーマについて説明しましたので、作品にとってのもうひとつの命である「コンセプト」にも触れないわけにはいきません。コンセプトというのは、そうですね、テーマにもとづいて決められる「作品のルール」と言うことができるでしょうか。

わかばちゃん

ルール?

3Dはかせ

作品を作るということは、自分で決めたルールに従って作品の形を具体的なものにしていくというプロセスです。ルールがなければ作品はムチャクチャなものになってしまいますから、そうならないためにコンセプトを決める必要があるのです。作品全体を支配するルールは途中で変えることはできず、最初に決めたルールを守って最後の完成にまでもっていかなければなりません。

わかばちゃん

テーマを決めてからコンセプトを決めるの?

3Dはかせ

必ずしもそうとは限りません。コンセプトを先に思いつくという場合もあります。しかし、コンセプトはテーマに合うものである必要があります。ですので、いくつかのコンセプトのアイデアをストックしておいて、テーマが決定したらそれに合うコンセプトを当てはめるというのも、ひとつのやり方です。

わかばちゃん

コンセプトってたとえばどんな感じ?

3Dはかせ

たとえば、キャラクターがすべて野菜だ、とか、キャラクターも環境もすべて金属でできている、とか、そういう感じでしょうか。コンセプトは斬新でユニークであることが望ましいので、できるだけたくさんのアイデアを考えて、そこからしぼりこんでいってみてください。あまり流行や常識にとらわれないほうがいいですよ。

わかばちゃん

わかった、やってみる。

●テーマのとらえかた

3Dはかせ

いまから、テーマをとらえるためのひとつのポイントをお教えしたいと思います。ここでお話する内容は、次回の「キャラクターと環境」の内容ともつながっています。
ところで、わたしたちは「個人」ですよね。独立した自由な意志をもったひとりの存在です。わたしも個人ですし、わかばちゃんも個人です。そういう個人がたくさんあつまって「社会」ができあがっています。社会というのを「他者」や「組織」や「共同体」という言葉に置きかえてもいいですし「ルール」や「システム」と呼んでもいいでしょう。とにかく個人ではない別のものです。ここでは、それらをひっくるめて「社会」と呼ぶことにします。
この「社会」というのは、基本的に個人の集まりであるはずなのに、どういうわけか、たいていは個人に優しくはありません。

わかばちゃん

どして?

3Dはかせ

個人というのは、みんな自由な欲望をもって生きています。それじたいは悪いことではありません。しかし、個人が、それぞれみんな好き勝手に欲望のおもむくままに行動したら、必ずケンカが起き、ケンカは殴りあいに、殴りあいは殺しあいに発展し、世のなかがメチャクチャになってしまいますよね。それでもいいや、と思う人もいるかもしれませんが、大多数はそういうのをイヤがります。そこで、そういう個人どうしが暴力で争いあう世のなかにならないように、みんなでルールを作って、それをみんながいっしょに守ることで、秩序のある安定した社会を作ったわけです。

わかばちゃん

メデタシメデタシ。

3Dはかせ

いえ、そこまでは良かったのですが、それによってまた別の問題も生じてきました。個人と社会との摩擦です。安定した社会をたもちつづけるには、ある程度、個人の欲望をおさえつけていかなければなりません。しかし、それをつづけていくと個人にモヤモヤやイライラがたまってきます。そういう不満をうまく解消できればいいのですが、うまくいかない場合も少なくありません。そうすると人は、無気力になったり、心身の病気になったり、他人への態度が悪くなったり…、そうなってしまいかねません。犯罪をする人も出てくるでしょう。

わかばちゃん

そっか。だから、単純に善人と悪人にわけられないんだ…。悪い人に見えても、じつは原因は社会のほうにあったりするんだね。

3Dはかせ

あれ、なんか、わかばちゃんらしくないセリフですね…。

わかばちゃん

台本どおりにしゃべっただけっす。

3Dはかせ

個人と社会が、相思相愛の状態が望ましいのですが、なかなかそうはいかないのが現実です。個人と社会は、互いが互いを支えるという構造になっていて、切り離すことができません。しかし、つながっているからこそ、対立が生じてしまうのです。
この「対立」という言葉、これこそ、ストーリーを作るときの最重要キーワードです。「対立」という言葉は「問題」「トラブル」「葛藤」「矛盾」「不条理」「苦痛」「不安」「悩み」といった別の言葉に置きかえて考えても構いません。とにかくそういうものを全部ひっくるめてここでは「対立」と呼びます。
良くできたストーリーには必ず「対立」が含まれています。これはつまり、良くできたストーリーは、個人と社会の両面をその中に含んでいるということでもあります。

わかばちゃん

じゃあさ、なんか社会問題っぽいテーマをどこかから見つけてくればいいんだね!

3Dはかせ

いえいえ、それでは意味がないんですよ。借り物のテーマでは作品に説得力が生まれないのです。テーマは、アーティスト自身のなかから取りだされる必要があるのです。
どんな人でも、個人である以上は、社会というほど大きなものでないにしても、自分自身とは別の存在との対立を経験しているハズなのです。たとえば、パソコンや携帯電話がうまく動かない場合、それは「個人とモノ」の対立だと言えますし、友だちと話していたら意見が合わなくて口論になってしまった場合は「個人と他者」の対立といえます。自分自身のいままでの人生を振り返ってみると、たくさんの対立があったことに気づくハズです。

わかばちゃん

そういわれてみると、そういうのいっぱいあったかも…

3Dはかせ

そうですよね。そういった経験をそのままストーリーにしてしまうのも、手っとり早いひとつの方法に違いありません。けれども、できれば、その個人的で具体的な経験のなかから「普遍性」がある部分をうまく取りだして、それをアレンジしてストーリーを作ることができると、なおいいです。なぜなら、それができるようになればSF(サイエンス・フィクション)やファンタジーといった日常や現実を超えたストーリーも作ることができるようになり、作品にグッと幅が出るからです。

わかばちゃん

フヘンセイってなに?

3Dはかせ

自分だけではなくて、他人も共通してもっている経験のことです。とはいえ、他人の心のなかは、わたしたちはのぞくことができませんので、正確にいえば「共通してもっている“ハズ”の経験」のことです。だいじなのは想像力ということになります。
もし、自分だけの、他のだれにも共通していないきわめて個人的な経験を作品にしてしまうと、だれの共感も得られないという残念な結果になってしまう可能性があります。作品に共感してくれる人は、できるだけ多いほうがいいですよね。作品が評価されるということの最初のステップは、まず共感されること、内容を理解してもらうことです。

わかばちゃん

なるほど。

3Dはかせ

先ほど、わたしが「カタルシス」の話をしたことを覚えていますか?

わかばちゃん

便秘の話?

3Dはかせ

そうです。いまお話した「対立」が、便秘状態のことです。ですから「対立」を解消してあげれば、カタルシスが生まれる、つまりスッキリするわけです。

わかばちゃん

な~んだ、簡単だね。

3Dはかせ

簡単といえば簡単ですが、簡単すぎてもいけないのがストーリーなのです。

わかばちゃん

そうなの?

●ストーリー構成のコツ

3Dはかせ

たとえば、上映時間が3分の作品で、冒頭の30秒で「対立」がパッと解消してしまってはダメなんです。それではまったく面白くありません。面白い作品にするためには、時間の使いかたに工夫をこらす必要があります。ストーリーのどこにどういうふうにネタや山谷を配置するか、それを工夫するのを「構成」といいます。カタルシスはいちばん最後のほうにもってくることが大切です。観る人の興味を失わせないためには、ストーリーの構成をよく考えて、対立の状態を長びかせて、緊張感をおしまいまで持続させてやる必要があります。

わかばちゃん

トイレ行くのをガマンさせるんだ!

3Dはかせ

そういうことです。
西洋では、大むかしから「三幕構成」がストーリーのもっとも基本的な構成と考えられてきました。「始まり(第1幕)」「途中(第2幕)」「終わり(第3幕)」の3つのブロックをもつ構成です。
日本では、「起・承・転・結」の構成といって、4つのブロックからできているお話が良いと言われてきました。「起」は始まり、「承」は話が展開していく部分、「転」はクライマックスで驚きを与える部分、そして「結」は結末です。わかりやすい例で言えば、4コママンガですね。

わかばちゃん

3つのブロックと4つのブロック、どっちがいいの?

3Dはかせ

基本的には「起・承・転・結」の構成を意識してストーリーを作っていくのがいいと思います。ただ、実際にその構成でストーリーを作ろうとすると、どこが「承」で、どこが「転」で…というのがよくわからなくなってくることがあります。
そこで、わたしは、6つのブロックをもった構成でストーリーを作ることを提案したいと思います。

わかばちゃん

6つ!? ややこしそう……

3Dはかせ

そんなにややこしくはありませんよ。とりあえず見てみてください。
【1】対立の発生
【2】対立解消のためのトライ1
【3】トライ1の失敗(挫折)
【4】対立解消のためのトライ2
【5】トライ2の成功(カタルシス)
【6】対立の解消。エピローグ

わかばちゃん

見てもよくわかんない。

3Dはかせ

いいでしょう、上からひとつずつ説明していきます。
【1】ですが、まず最初に対立をドンと置いてやります。ストーリーの冒頭は「つかみ」と言って、人の関心をつかむ重要な部分なので、インパクトが大切です。とくに短編作品の場合は、くどくどと状況説明をするヒマはないので、勢いよくスタートダッシュをするつもりでいきましょう。
【2】で描くのは、最初に置いた対立をとりあえず解消するため行動「トライ1」です。これは、一見うまくいきそうに見えて、しかし、うまくいかない、というギリギリのアプローチができると、面白くなります。
【3】は【2】の結果を見せる部分で、【2】でおこなった「トライ1」は失敗します。主人公は挫折を味わいます。
【4】で描くのは再挑戦です。「トライ1」とは別の方法で「トライ2」をおこなわせましょう。「トライ2」は「トライ1」の失敗をじゅうぶんにふまえて、そこでの学習をフルに活用してのアプローチであることが望ましいです。これがうまくいくかどうか、というのが作品のクライマックス(山場)になります。
【5】は【4】の結果です。「トライ2」はぶじに成功します。が、ここでもう一度失敗させて「トライ3」「トライ4」「トライ5」…とつないでいってもかまいません。長編のストーリーを作る場合は、「トライ→失敗」のサイクルを何度か繰り返しましょう。回数は自由ですが、とにかく最後のトライ、つまり成功するトライは、それまででいちばん盛りあがるように工夫しましょう。
【6】では、最後のトライが成功したことによって、最初にあった対立が消えたことを示します。最初にあったモヤモヤ・イライラが消えてスッキリするわけです。場合によっては、新たな別の対立を発生させて終わってもいいかもしれません。

わかばちゃん

え~と、でもこれって、よくみるとほとんど「起・承・転・結」だよね?

3Dはかせ

よく気づきましたね。そのとおりです。じつは「承」を【2】【3】に、「転」を【4】【5】に分けて6つのブロックに作り変えた構成なのです。
わたしが提案するこの構成の重要なポイントは、ストーリーのなかに「失敗(挫折)」をハッキリと盛りこんでいることです。多くの面白くないストーリーは、失敗を入れていなかったり、入れていても不十分だったりします。簡単に解消できてしまう対立なんて、もともとたいした対立ではないのです。対立、つまりテーマが、重大なものであることを印象づけるには、対立解消のためのアプローチが失敗するということを見せるのがいちばんです。

わかばちゃん

失敗は成功のもと!

3Dはかせ

まったくそのとおりです。失敗というのはストーリーという料理の最高の調味料なのです。失敗をしない人間はいませんよね? だれでも必ず失敗の思い出をもっているものです。この「だれでも共通する」という性質を、なんていうか覚えていますか?

わかばちゃん

ふ……普遍性?

3Dはかせ

よくできました。
では、今回はここまでです。次回は、キャラクターと環境についてお話します。次回は絵を描いたりもしますので、スケッチブックや鉛筆などを用意しておいてくださいね。

わかばちゃん

今回は宿題ないの?

3Dはかせ

自分が作りたいキャラクターのアイデアをいろいろ考えてみてください。今回のストーリーについての話をしっかりふまえて考えることが大事ですよ。

わかばちゃん

ラジャー!

3Dはかせ

では、わかばちゃん、今回もお疲れ様でした。

わかばちゃん

おつかれさまでした~

第3回・Pre-production 02【キャラクターと環境】は6月末ごろのアップロード予定です

第3回 Pre-Production 02

キャラクターと環境

●キャラクターとは

3Dはかせ

こんにちは。3Dはかせです。

わかばちゃん

わかばちゃんだよ!

3Dはかせ

前回は「ストーリー」について考えてみました。覚えていますか? 今回は「ストーリー」と切っても切れない関係にある「キャラクター」と「環境」について考えてみたいと思います。
まずは、キャラクターについて考えてみることにしましょう。わかばちゃん、キャラクターってなんだと思いますか?

わかばちゃん

え~と。カワイイものかな?

3Dはかせ

まあ、たしかにかわいいキャラクターは多いですね。しかし、そうでないものも多いですよね。
英語の「character」という語には「性格」「性質」「人物」「記号」「文字」などさまざまな意味がありますが、アニメーション作品におけるキャラクターという語は「人格をもった存在」を指す言葉として使われています。人格というのは、少々難しい言いかたをすれば「主体性」ということです。自分で思考や判断ができる独立した性質が主体性です。人格、とはいっても、必ずしも人間である必要はありません。外見はなんでもいいのです。

わかばちゃん

そうなの?

3Dはかせ

わたしやわかばちゃんは、外見は人間っぽくはありませんが、それぞれ人格をもっていますよね。つまり、わたしたちは、キャラクターなのです。

わかばちゃん

そっか、わかばちゃんはキャラクターだったんだ…

3Dはかせ

わたしたちは外見も違いますが、性格や考えかたといった内面もみんな違います。そういう違いが、キャラクターにとって非常に大切なのです。そういう違いが、そのキャラクターをほかのキャラクターから区別し、そのキャラクターを唯一無二のものとして成立させているわけですね。

わかばちゃん

みんなちがって、みんないい。

3Dはかせ

その通りです。ちがってていいのです。というよりもむしろ、アニメーション作品のキャラクターはほかと違っていなければいけません。わたしたちが、キャラクターを生みだすときは、他作品との「違い」ということに意識的になる必要があります。
characterに意味的に似た言葉に「personality(パーソナリティ)」という言葉があります。これは日本語では「個性」と訳されます。個性というのは、その人を他人から区別する大切なものです。キャラクターは個性的であることが求められます。

わかばちゃん

わかばちゃんもよく個性的だねっていわれるよ。

3Dはかせ

その個性はだいじにしたほうがいいですよ。
ところで、キャラクターには大きく分類して4種類のキャラクターがあります。「主人公」と「メイン・キャラクター」と「サブ・キャラクター」と「モブ・キャラクター」です。
「主人公」と「メイン・キャラクター」は作品の中心的なキャラクターであり、ストーリーを動かしていく存在です。一般的には主人公が固定の作品が多いですが、作品によっては主人公がメイン・キャラクターのなかで次々に交代する場合もあります。
「サブ・キャラクター」はいわゆる脇役です。脇役ですが、名前も個性もあります。登場する割合が少ないキャラクターですが、たとえばシリーズものなどで登場回数が増えてくるとメイン・キャラクターに昇格する場合もあります。
「モブ・キャラクター」は名前がない「その他大勢」のキャラクターのことです。実写映画でいえばエキストラのことですね。作品のなかで目立っては都合が悪いので、個性を持たせることはしません。

わかばちゃん

なるほど。

3Dはかせ

キャラクターのなかでも主人公というのは特別なキャラクターですが、主人公にはどんなイメージがありますか?

わかばちゃん

んとね、すごくキレイなひととかカッコイイひととか…

3Dはかせ

映画やアニメやゲームの主人公というのは、たいていは美男美女であり、多くの人々にとっての理想像的存在です。しかし、その理由は商業的な目的で作品が作られているからです。そういう現実的な目的があるということを忘れてはいけませんよ。
誤解しないでほしいのは、商業作品がダメで、純粋な芸術作品がイイ、とわたしが言いたいのではないということです。ダメなのは、とくに考えもなく商業作品のマネをするということです。人気があるキャラクターをマネしたくなる気持ちはわからなくないですが、オリジナリティのあるキャラクターを創造するように心がけてくださいね。

わかばちゃん

がってん承知!

3Dはかせ

主人公というのは、一言でいえば「作品のテーマを背負った存在」のことです。前回、テーマというのはアーティストの問題意識のことだと説明しましたよね? 主人公は、それをハッキリとわかる形で表現した存在です。しかし、主人公だけでテーマをすべて表現しきれるわけではなく、主人公と環境とストーリーとのいわば「共同作業」によって、テーマの表現をより明確に完全なものにしていくのです。
少なくとも、主人公にテーマを語らせて、それでテーマを描いた、とは考えないでくださいね。たしかに、アーティストはテーマを「言葉」として自分のなかにもっていますが、それをそのまま言葉として出してはいけないのです。テーマを映像として「表現」しなければならないのです。

わかばちゃん

そうなんだー。

3Dはかせ

ところで、少々現実的なことを言いますが、3DCGアニメーションにおいてはキャラクターの「数」は、じつは重要なポイントです。

わかばちゃん

数? なんで?

3Dはかせ

3DCGアニメーション作品はキャラクターを増やせば増やすほど制作が大変になっていきます。制作時間はどんどん長くなり、反対に準備した資金はどんどん減っていきます。ですから、登場させるキャラクターの数をいくつにするかは、とても重要な問題です。作品を制作不可能なものにしてしまわないためには、ストーリーのうえで必要がないキャラクターは登場させないことです。また逆に、キャラクターがやたらと多く登場するタイプのストーリーは最初から作ろうと試みないことです。
とはいえ、3DCGには形が同じものを簡単にたくさん増やすことができるという長所があるのも、また事実です。ですから、ちょっと知恵を使って、作品内のすべてのキャラクターをほとんど同じ外見にしてしまう、というやりかたもあります。

わかばちゃん

じゃあ、キャラクターはいくつ出せばいいの?

3Dはかせ

決まりがあるわけではありません。実現可能な範囲でキャラクターを登場させてくださいとしか言えませんね。ただ、短編の場合は、主人公ひとりだけでもじゅうぶんに作品を作ることが可能だとは言っておきましょうか。

わかばちゃん

ひとりでもストーリーができるの?

●環境とは

3Dはかせ

もちろんできます。そのこととも無関係ではない要素、「環境」について、このあたりでお話ししておきましょうか。

わかばちゃん

環境ってなに? 地球にやさしく、みたいな?

3Dはかせ

アニメーション作品にキャラクターが必要なものであることは、わざわざ言うまでもないことでしょう。しかし、キャラクターだけでは作品は成立しません。前回あつかった「ストーリー」がなくては面白くありませんし、また「画面」というものを考えてみるとわかると思いますが、「環境」がなければそもそも画面は成立しないのです。

わかばちゃん

画面ってなに?

3Dはかせ

最終的に作品を表示して観客に見せる四角い平面的な窓のことです。現代風の言いかたをするなら、アーティストと観客をつなぐインターフェイスと言ってもいいかもしれませんね。次回の「絵コンテ」のところでも取りあげる予定ですが、一部の例外をのぞいてアニメーション作品というのは、縦と横の比率が一定に決められた四角形の画面のなかで見せる芸術作品です。
環境が画面において欠かせない要素であることは、つぎの図を見てみてもらうと、わかってもらえるのではないかと思います。

わかばちゃん

なるほど~。たしかにキャラクターだけじゃスキマだらけになっちゃうね。

3Dはかせ

「環境」は、一般的には「背景(バックグラウンド)」と呼ばれることも多いのですが、しかし、キャラクターのうしろ(バック)にのみ存在するものというよりは、キャラクターをグルッと取り囲む空間全体と考えたほうがいいでしょう。ですから、キャラクターとカメラの「あいだ」に遮るように存在する場合もありますし、キャラクターが環境に直接触れて影響を与えるという場合もあります。キャラクターが触れるものは、建築物の一部だったり道具だったり自然物だったりしますが、キャラクターが持ったり使ったりして演技に関係してくるモノは「小道具(プロップ)」と呼ぶ場合もあります。それらのものを全部ひっくるめて、ここでは「環境」という言葉で呼ぶことにします。

わかばちゃん

了解っす!

3Dはかせ

わかばちゃん、前回の「個人と社会」という話を覚えていますか?

わかばちゃん

うん、なんとなく。個人と社会が対立してるって話でしょ?

3Dはかせ

はい。そこでお話した「個人」というのが「キャラクター(主人公)」に、「社会」というのが「環境」に、それぞれ対応していると考えてください。個人という小さな存在に対して、社会が個人を取り囲む巨大な存在であるのと同じで、小さなキャラクターを巨大な環境が取り囲んでいるのです。キャラクター以外は、ぜんぶ環境と考えてかまいません。環境は、キャラクターにとっては自分以外のモノ、自分とはまったく異質の他なる存在なのです。

わかばちゃん

キャラクターと環境、どっちがだいじなの?

3Dはかせ

もちろん、キャラクターです。わたしたちが感情移入できるのはキャラクターであり、環境ではないからです。

わかばちゃん

カンジョーイニュー?

3Dはかせ

わたしたちが、自分の気持ちを重ねあわせる対象のことです。キャラクターが大事なのは、感情移入だけではなく、ストーリーじたいを動かすのがキャラクターだからです。キャラクター、とくに主人公の「行動」がストーリーを動かします。ですから、キャラクターがいなければストーリーはそもそも生じてこないのです。ストーリーというワクのなかでキャラクターが動くというよりは、むしろ、キャラクターの行動がストーリーを生みだすのです。

わかばちゃん

キャラクターってすごくだいじなんだ。

3Dはかせ

はい。けれども、キャラクターを魅力的に描くためには、環境をしっかり描いてやる必要があります。なぜなら、キャラクターが存在できるのは環境のおかげだからでもあるからです。そもそも、地面や床という環境がなければ、キャラクターは立つことも歩くこともできませんよね。キャラクターが「生きた(命をもった)存在」として登場するためには、キャラクターを「生かす」ための環境、つまり、地面や道路や家や道具や食べ物などが存在していなければなりません。

わかばちゃん

でもさ、ごはん食べないキャラクターだったら?

3Dはかせ

いいところに気づきましたね。環境というのは、キャラクターの「欲望」や「欲求」に密接にリンクしているのです。水も食料も必要ないキャラクターなら、砂漠のような場所に住んでいても少しもおかしくありません。けれども、もし普通の人間が、水も食料もない砂漠のまんなかにいたら、大丈夫なの?生きていけるの?って疑問に思いますよね。

わかばちゃん

じゃあ、そのまわりに水とか食べ物を置いてあげればいいんだね。

3Dはかせ

おっと、アーティストはそんな親切なことをしてはいけませんよ。前回、「対立」というキーワードについてお話したのを覚えていますか? ストーリーには対立が必要不可欠なのです。対立というのは、個人と社会の対立だと前回お話ししましたが、今回の話題にあわせて言い換えれば、キャラクターと環境の対立だということになります。

わかばちゃん

うーん、なんかよくわからないんだけど。対立ってケンカみたいなもんでしょ? キャラクターと環境がケンカするの?

3Dはかせ

そうです、そのとおりです。「環境」というと、中立的で無害なイメージがあるかもしれませんが、作品における「環境」は、アーティストがわざわざ設置するものですから、そこにはなんらかの意図があると考えるべきです。作品を作る側の理屈で言えば、ある環境が置かれる場合、そこにアーティストの明確な意図があるべきなんです。その意図は、普通はキャラクターにとって都合の良いものではありません。キャラクター(主人公)にとって「悪意」が込められている場合が多いです。なぜなら、そうであるほうが作品が面白くなるからです。

わかばちゃん

じゃあなに、主人公が歩こうとすると、わざと転ばせちゃうみたいな?

3Dはかせ

そういう環境が存在しても面白いでしょうね。アーティストにとって大事な仕事は、キャラクターが思い通りにならない「シチュエーション(状況)」をうまく作りだしてやることなのです。シチュエーションというのは、キャラクターと環境の緊張的な関係のことです。キャラクターが、困っている状況、悩んでいる状況、怒っている状況、そういった状況が面白さを生むのです。

わかばちゃん

環境がヒドければヒドイほど、おもしろくなるんだ。アーティストって性格ワルイんだね。

3Dはかせ

先ほどの、主人公ひとりでもストーリーが成立するという話を覚えていますか?

わかばちゃん

うん。

3Dはかせ

今までの話でなんとなく気づいたかもしれませんが、環境にはキャラクターのような「人格」を与えることが可能なのです。環境がおとなしく静止している必要はまったくありません。生き物のように動いて変化していいのです。
別の言いかたをすれば、環境というのは、モブ・キャラクターのつぎに置かれるべき5種類目のキャラクターだとも言えるでしょう。
さらに別の言いかたをすれば、主人公以外のキャラクターは、すべて環境の一部と言うことも可能です。もちろん、一般的なキャラクターは、環境とはちがってしゃべったり行動したりしますが、しかし、主人公から見れば、環境も他のキャラクターも自分とは異なる「他者」であり、ある意味では同質のものなのです。

わかばちゃん

わかったような、わからないような…

●キャラクター・デザイン

3Dはかせ

では、このへんでキャラクター・デザインの話に入っていくことにしましょう。

わかばちゃん

わーい。

3Dはかせ

キャラクターは、アーティスト自身の分身ともいえる存在なのですが、分身だからといって似せる必要はありません。むしろ、自分とはまったく異なるキャラクターを生みだしてみてください。それは、俳優が自分とはまったく異なる人物になりきって演技するのと似ています。想像力の出力を最大にして、自由に発想を羽ばたかせて面白いキャラクターを創りだしてください。キャラクターは人間である必要はありませんよ。動物でもいいし、虫やロボットや道具でもかまいません。なんでもいいのです。

わかばちゃん

なんでもいいんだ。

3Dはかせ

はい。ただし、どんな外見であっても、キャラクターは「人間」を描くための存在だということを忘れないでください。

わかばちゃん

え、そうなの?

3Dはかせ

作品が人間にむけて作られる以上は、作品のテーマはつねに人間に関係したテーマでなければなりません。これは芸術の鉄則です。ですから、そのテーマを表現するために生みだされるキャラクターは、当然、人間を描くための存在なのです。どんなに外見が人間からかけ離れていても、その性格や内面は、どこかに人間を感じさせるものをもっている必要があります。

わかばちゃん

なるへそ。

3Dはかせ

キャラクター・デザインというのは、大きく2段階にわけられます。まず、文字による段階、そして次に、絵による段階です。

わかばちゃん

文字によるデザインってどうゆうこと? それってデザインなの?

3Dはかせ

形があるものだけをデザインするのがデザインではありません。文字でキャラクターをデザインするというのは、つまりキャラクターの「プロフィール」を作るということです。「名前」「性別」「年齢」「人種や種族」「性格」「家族構成」「好きな食べ物」「口ぐせ」「長所や短所」などを決めるのです。このとき大切なことは、作品のテーマとコンセプトに則ってキャラクターのプロフィールが決められる必要があるということです。
キャラクターのプロフィールは、ストーリーを作る上で必要と思える要素はすべて決めておく必要があります。逆に言うと、ストーリー上必要がないと思えるものは決める必要がありません。たとえば、ストーリーに兄弟がまったく関係してこないのであれば、兄弟がいるという設定は必要がありません。
とはいえ、ストーリーに直接関係がなくても考えておいて無意味ではないこともあります。それは、キャラクターの「過去」です。

わかばちゃん

過去?

3Dはかせ

はい。わたしたちは、だれでも「空間」のなかを生きていますが、同時に「時間」のなかを生きていますよね。生まれてから今までの間、1秒の休みもなく時間のなかを生きてきました。ということは、時間のなかを生きてきた「痕跡」が、だれにでも必ずあるということです。それは、外見にも内面にもあるはずなのです。言いかたを変えると、現在のそのキャラクターというのは、これまで生きてきた時間のすべてが凝縮されたものであり、わたしたちは、時間のいわば地層のようなものを見ているということなのです。

わかばちゃん

わかばちゃんにも過去があったっけ?

3Dはかせ

自分の過去を忘れちゃったんですか? それはいわゆる記憶喪失というヤツですよ。記憶喪失のキャラクターも多いですけどね。
それはともかく、キャラクターの過去が、キャラクターにリアリティ(ほんとうらしさ)と厚みを与えるのです。外見に限定して例をあげれば、キャラクターの身体にあるキズや、顔のシワ、服装の汚れや破れ、古い持ち物など、そういったものがキャラクターの過去を知らせる情報ということになります。
では、絵によるキャラクター・デザインについてもお話しましょう。

わかばちゃん

やった。

3Dはかせ

まず最初におさえておくべき重要な点ですが、キャラクターの内面と外見は必ずしも一致する必要はありません。

わかばちゃん

どゆ意味?

3Dはかせ

キャラクターの性格や人格といったものが、外見、つまり顔や姿かたちにあらわれていなくてもいい、ということです。たとえば、やさしい性格のキャラクターだからといって、見た目もやさしそうにする必要はありません。性格に反してすごくこわそうな顔であってもいいのです。現実にもそういう人はいっぱいいますよね?

わかばちゃん

いるいる。

3Dはかせ

キャラクターの外見というのは、キャラクターの一部でありながら、同時に環境にも属している部分です。外見は「与えられたもの」であり、自分の思いどおりにならないことも多いからです。ですから、ときにキャラクターの内面と外見のあいだで「対立」が起きる場合もあります。有名な『フランケンシュタイン』やカフカの『変身』という作品は、その典型的な例だといえるでしょう。

わかばちゃん

わかばちゃんはこの外見、気にいってるよ。

3Dはかせ

それはなによりです。
さて、個性的なキャラクターの外見を生みだすためのアプローチ方法をここで2つお教えしておこうと思います。実際にはたくさんの方法がありますから、私が提案するのはほんの一例だと思っておいてください。
まず最初の方法は「言葉」から作っていく方法です。手はじめに、テーマやコンセプトの「キーワード」といえる言葉をひとつ見つけだしましょう。そのキーワードから、さらに別のワードをいくつか連想してみましょう。数は多いほうがいいです。思いつくかぎりのワードを紙などに書いてみましょう。つぎに、そのなかで、もっとも関係がなさそうなワードを2つ選んでみましょう。たとえば、「毒キノコ」と「天使」というワードを選んだとしたら、それらを組み合せてキャラクターのラフ(簡単)な絵を描いてみましょう。

わかばちゃん

えーと、こんな感じとか?

3Dはかせ

おっ、意外といい感じですね。そういうキャラクターのラフ画をいくつも描いてみましょう。うまくいかない場合は、ワードを変えてやってみるといいでしょう。いつくか描いていくうちに、きっと「これだ!」と思うデザインが出てくると思いますよ。

わかばちゃん

わかった、やってみる!

3Dはかせ

いまお伝えしたのは「言葉」をキッカケにした方法でしたが、2つ目の方法は「形」をキッカケとしてデザインする方法です。まずは、とにかく自由に紙に落書きをしてみてください。アタマで考えずに、手が動くのにまかせてテキトウにいろいろな形を描いてみてください。目をつぶって描いてもいいですよ。これも数が多いほうがいいです。そういう落書きのなかから、ちょっと形が面白いなと思ったものをいくつか選びだしましょう。その形に目や口や手足などをつけてみると、キャラクターらしさが出てきませんか?

わかばちゃん

こんなんで、ホントにキャラクターができるのかなぁ…?

3Dはかせ

心配になるのも無理はありませんが、この方法は「無意識」を利用する立派なテクニックのひとつです。最初の、言葉をキッカケに作っていく方法だと、言葉がもつ一般的なイメージにしばられすぎてしまうという欠点があります。そういう言葉の限界を乗り越えるには、まだ言葉になっていない漠然とした無意識のイメージを利用するのが有効なのです。

わかばちゃん

へ~、そういうもんなんだ。

3Dはかせ

はい。この2つの方法を両方使いながらキャラクターを生みだしていくのをわたしはオススメします。
いま紹介したやり方は、キャラクターの外見的な側面に対して有効な方法でしたが、キャラクターを作るときのポイントは、文字によるデザイン(内面)と絵によるデザイン(外見)を同時並行的に進めていくのがミソです。視覚が言葉に、そして逆に、言葉が視覚に影響を与えるからです。また、キャラクター・デザインとストーリー作りもいっしょに進めていくのがいいでしょう。優れたストーリーというのは視覚的ですし、逆に、優れたキャラクターデザインは物語を感じさせるものです。

わかばちゃん

もっとキャラクター・デザインのコツってないの?

3Dはかせ

いいでしょう。この図を見てください。なんのキャラクターかわかりますか?

わかばちゃん

あ、わかるわかる!

3Dはかせ

さすがですね、わかばちゃん。これは、良いキャラクター・デザインを生みだすためのヒントです。つまり、真っ黒に塗りつぶしてもそのシルエット(輪郭)だけでキャラクターが判別できるということ、それが優れたデザインのひとつの条件なのです。色やディテール(細部)の情報などは二次的なものであり、全体の大きな形の特徴こそがキャラクター・デザインの本質(いちばん大事なもの)なのです。
わたしたちは、ネコとペンギンを見わけることができますよね? ネコもペンギンも、種類や個体差などがありますから、すべてバラバラの外見のハズですが、わたしたちは細かい違いは無視して、シルエットを見て「ネコだ」「ペンギンだ」と判断します。そういう大づかみでとらえうる特徴をキャラクターに盛りこむのがポイントです。

わかばちゃん

なるほど。

●環境のデザイン

3Dはかせ

環境のデザインについても話しておきましょう。環境デザインも、キャラクター・デザインと基本的な方法はだいたい同じです。やはり大切なことは、環境もキャラクターと同様にテーマやコンセプトが表現されたものである必要があるということです。とくに環境は、基本的にキャラクターと対立する性質をもっていますので、視覚的にそれが表現されているのが望ましいです。
環境は、多くの場合、キャラクターのように動きまわったりセリフを言ったりという目立った自己主張はおこないませんが、しかし、キャラクターが画面にいないときも、ほとんどつねに画面のなかに存在するものです。そういう意味では、キャラクターと同じくらいに作品の外見的な印象を決める部分なので、しっかりと考える必要があります。

わかばちゃん

なにかコツはないの?

3Dはかせ

普通は、現実の世界をベースに作っていくのがいいでしょう。現実の世界は、一見するとバラバラで規則性もないように見えますが、たとえば、1960年代に撮られた写真や映像などを見ると、街や人々の衣服などに、その時代独特の「様式(スタイル)」があることに気づくと思います。時代というのは、必ずなんらかの様式をもつものなのです。また、地域や国や民族などの違いによっても様式は独自性をもちます。
そういった「様式」を意識的に取りいれるのは、環境デザインにとっておさえておくべきポイントです。
もちろん、『スター・ウォーズ』やファンタジー映画のように、完全に架空の様式を生みだしてもかまいません。しかし、そうする場合も現実に存在する(または存在した)様式を参考にして独自の様式を創りだすのが一般的です。
現実の様式を作品のなかに登場させる場合は、実際よりも少し誇張してやると面白くなります。この「誇張」という手法は、アニメーション作品のなかでは頻繁に使われる方法です。だれもがもっているイメージを単純に使うことを「ステレオタイプ(紋切り型)」といって、避けるべきことがらではあるのですが、ステレオタイプも誇張して極端なかたちで示せば、それはそれで面白いものになるのです。

わかばちゃん

たとえば?

3Dはかせ

たとえば、そうですね…。日本は海外からどんなイメージで見られているでしょうか?

わかばちゃん

ニンジャとかフジヤマとかスシとか……

3Dはかせ

はい、それが海外での日本のステレオタイプなイメージですね。外国映画には「おかしな日本」はたくさん出てきます。なぜ外国人が描くと奇妙な日本になるのかといえば「視点」が異なるからです。一般的に日本人は日本を中心にして世界を見ていますし、それと同様に外国人も自分の国を中心にして日本や他の国を見ています。そのような視点のちがいが、同じモノを見ても、ちがう印象で受けとられる原因をつくるのです。
わたしたちは外国人の視点を手に入れることはできませんが、それを想像することはできます。外国人がイメージとしてもっている日本を、極端なかたちで示すことができれば、現実の日本を超越した、この世のどこにもないファンタジーとしてのニッポンを創造することもできるでしょう。

わかばちゃん

おもしろいね。

3Dはかせ

そういう、見慣れた日常的な世界を、非日常的な世界へと変えてしまうテクニックのことを「異化」といいます。
「様式」が、みんながもっている共通的なイメージへと作品をまとめていくことだとすれば、「異化」はその反対に、様式とはちがう違和感を意識的にわざと作りだしてやることです。それによって思いがけない面白さが生まれることがあります。「様式」と「異化」は、まったく反対の性質といえますが、うまく使いこなすことで非常に魅力的な環境を生みだすことができるでしょう。

●プロットと字コンテ

3Dはかせ

さて、ストーリーとキャラクターと環境のアイデアが固まってきたら「プロット」を書きましょう。

わかばちゃん

なにそれ?

3Dはかせ

簡単にいえば「あらすじ」のことです。ストーリーの最初から最後まで、すべての流れを一度、文章で書いてみてください。

わかばちゃん

どうやって書くの? わかばちゃん、文章とか書いたことないんだよね。

3Dはかせ

わかばちゃんは「5W1H」という言葉を知っていますか?

わかばちゃん

ぜんぜんしりません!

3Dはかせ

いつ(When)、どこで(Where)、だれが(Who)、なにを(What)、なぜ(Why)、どんなふうに(How)」の英単語の最初の文字をとって「5W1H」と呼ばれています。文章で自分の考えを他人に伝える場合、この5W1Hがハッキリしていないと、うまく伝えることができません。文章を書く場合に守るべき基本的ルールのひとつです。このルールは、ストーリーを作るさいにも守る必要があります。いわば、内容がムチャクチャにとっちらかったものにならないための枠のようなものです。

わかばちゃん

なんか、めんどうくさそう。

3Dはかせ

そんなに面倒でもないですよ。プロットを書くさいは、まず最初にこの6つの要素をキッチリ決めましょう。
「だれが」は、今回お話しました主人公のことです。そして、「いつ」と「どこで」は環境のことです。「いつ」は時代や季節といった環境の時間的な側面、「どこで」は国や場所などといった環境の空間的な側面です。
そして残りの「なにを」「なぜ」「どんなふうに」はストーリーの具体的な中身についてです。「なにを」というのは主人公の目的、「なぜ」は主人公の動機、「どんなふうに」は主人公が目的に到達する方法(手段)についてですね。
これらの6つの要素をすべて決めたら、テーマとコンセプトを踏まえながら、プロット(あらすじ)にまとめるのです。

わかばちゃん

なん文字ぐらいで?

3Dはかせ

とくに決まっているわけではありませんが、短編の場合は200~400文字ぐらいでしょうか。細かい設定や描写などは入れずに、できるだけシンプルに、ストーリーの大きな骨格を作りましょう。

わかばちゃん

プロットができたら、つぎはどうすんの?

3Dはかせ

次は「字コンテ」に進みます。これはプロットと「絵コンテ」のあいだを橋わたしするために用意するものです。簡単にいえば、プロットをより細かく具体的に書いたものですね。
短編のなかでも非常に短い作品の場合は、字コンテという段階を飛ばして、プロットから絵コンテに直接進んでもいいでしょう。

わかばちゃん

えこんて、ってなに?

3Dはかせ

絵コンテというのは、ストーリーをいくつもの「絵」で表したものであり、3DCGアニメーション作品にとって非常に重要な設計図としての役割をはたすものであります。
絵コンテについては、次回、くわしくお話しようと思います。
わかばちゃん、ここまでの話でわからなかったこととかはありませんか?

わかばちゃん

だいじょうぶ。カンペキに理解したよ!

3Dはかせ

では、今回はここまでにします。
わかばちゃん、お疲れ様でした。

わかばちゃん

おつかれさまでした~

第4回・Pre-production 03【絵コンテを描こう】は7月末ごろのアップロード予定です

第4回 Pre-Production 03

絵コンテを描こう

●絵コンテとは

3Dはかせ

こんにちは、3Dはかせです。

わかばちゃん

ごきげんよう、わかばちゃんですわァ~

3Dはかせ

今回は「絵コンテ」です。わかばちゃんは絵コンテがどういうものか知ってますか?

わかばちゃん

しりませんッ!!

3Dはかせ

絵コンテというのは、いわばアニメーション作品の設計図です。設計図ということは、絵コンテが良くないと完成した作品もけっして良くはならない、ということになります。ですから、絵コンテを描くという作業はアニメーション制作のなかでも、ひときわ重要な作業だといえます。数秒ほどのシンプルなアニメーションならば必要ないかもしれませんが、いくつものカットがあってストーリー性がある作品の場合、絵コンテがなくては的確な演出ができません。

わかばちゃん

そんなにだいじなんだ。

3Dはかせ

はい、とても大事です。
絵コンテは個人で作品をつくる場合にももちろん必要なのですが、グループで作品をつくる場合には、絵コンテがメンバーのあいだで作品の完成イメージを共有するためのツールになるので、個人制作のとき以上に重要になってきます。
さて、下を見てください。クリックすると、大きなサイズのものがダウンロードできますので、自由に使っていただいてかまいませんよ。

わかばちゃん

わーい、やったー! …てゆうか、これ、なに?

3Dはかせ

絵コンテ用紙」です。つまり、絵コンテを書くための専用の用紙です。400字詰め原稿用紙のように市販されてはいませんので、絵コンテを描く必要があるときは各自で作る必要があります。作る人によって多少レイアウトの違いはありますが、含まれている要素には大きな違いはありません。

わかばちゃん

どうやって使うの?

●絵コンテの描きかた

3Dはかせ

それを今から説明します。
絵コンテ用紙は、パソコンやタブレットなどでデジタルデータとして使用しても、印刷して手書きで記入するかたちで使用しても、どちらでもかまいません。自分が描きやすい方法を選択してください。
絵コンテ用紙を見てください。いちばん左側に《カット》と書いてありますよね。ここは、カット番号を書き入れていく欄です。

わかばちゃん

カットってなに? 映画監督がよくいう「はい、カット!」のカット?

3Dはかせ

そのカットとは意味が違います。ここでいうカットというのは、映像作品を構成する「単位」のひとつです。
ここで映像の単位について、お話しておきましょうか。
映像というのは、非常に細かく分解すると一枚一枚の絵や写真でできていることはご存知ですね。この一枚一枚は「フレーム」という単位で数えられます。それが一秒間に24フレームや30フレームという速度で、すばやく連続して切りかわることで、動いているように見えるわけです。原理としてはパラパラマンガとまったく同じですね。
そのようなフレームが何十枚か集まって「カット」という単位ができています。文章にたとえて言うなら、フレームは一個一個の文字で、カットは文(センテンス)といったところです。
海外では「ショット(shot)」という呼び方が一般的なようですが、日本ではカットと呼ぶことが多いので、この講座でもそれにしたがうことにします。映画監督が撮影をとめるときに言う「カット!」とは意味が違うので注意してください。

わかばちゃん

カットって、どっからどこまでが1カットなの?

3Dはかせ

これは実写映画を例に説明したほうが理解しやすいでしょう。カメラを回しはじめてから、カメラを止めるまでが、1カットです。もちろん、実際の実写映画では、撮影した素材をそのまま使うことはせず、必要な長さに切って(編集して)使いますから、カメラのスタートとストップが、完成映像の1カットの長さと一致はしません。しかし、概念的なイメージとしては、カメラが1回の撮影で生みだす連続したフレームのまとまりが1カットと思っておいて問題ありません。大丈夫ですか?

わかばちゃん

わかったっす。

3Dはかせ

カットの次に大きな映像の単位は「シーン」です。シーンは、場所によってまとめられた単位です。たとえば「台所」とか「小学校の校門前」とか「無人島の海岸」とか、そういう感じです。シーンはふつう、いくつかのカットで構成されていますが、たった1カットの場合もあります。文章にたとえていえば、シーンは段落(パラグラフ)に相当するでしょうか。
この絵コンテ用紙にはシーンを書きこむ欄はありませんが、絵コンテによってはそれがあるものもあります。

わかばちゃん

ふむふむ。

3Dはかせ

もう一度絵コンテ用紙を見てください。《カット》の欄には上から順番に1、2、3…というふうにカット番号を書き入れていきますが、絵コンテを描く作業ではカットの数が増えたり減ったり、順番が変わったりという変更がしょっちゅうありますので、ダイレクトに数字を書いていくのではなく、とりあえず○印を書いておいて、作業のいちばん最後に○のなかに数字を書いていくのがよいでしょう。

わかばちゃん

OKっす。

3Dはかせ

カットの説明はこれくらいにして、つぎは絵コンテ用紙の《画面》の説明にうつりましょう。この太い枠で囲まれたスペースに、具体的にどういう画面にしたいのかというイメージを絵で描いていきます。

わかばちゃん

なんか、マンガをかくみたいな感じだね!

3Dはかせ

マンガとちょっと似てはいますが、絵コンテでは、マンガのようにコマのサイズが大きくなったり小さくなったり変わったりはせず、すべての枠が同じ大きさです。なぜなら、映像作品というのは上映される映像の大きさが変化することは基本的にないからです。これはマンガとアニメーションの大きな違いですね。
絵コンテ用紙の《画面》のカタチは、つくる予定の作品のカタチと一致している必要があります。画面の縦と横の比率のことを専門的には「画面アスペクト比」といいますが、現在は一般的に「16:9」の画面アスペクト比が多く、この絵コンテ用紙も16:9の比率になっています。が、これはテレビやパソコンのディスプレイが16:9のタイプが多いからであり、必ずしもこの比率で作らなければならないという決まりはありません。

わかばちゃん

ねえ、3Dはかせ、セリフはこの《画面》のなかにフキダシで書くの?

3Dはかせ

いえいえ、マンガとはちがって《画面》のなかにセリフを書いてはいけませんよ。セリフの書きかたについては、あとで説明します。

わかばちゃん

了解っす。

3Dはかせ

いま説明しましたように、この太い枠のなかにそれぞれのカットの絵を描いていくわけですが、絵は上手か下手かはあまり関係ありません。最低限、描かれているキャラクターがだれなのか、そのキャラクターがそのカットでどういう動きをするのか、カメラはどこにあってどう動くのか、それらがわかれば、問題ありません。画面のなかに含まれるコマゴマした物体を全部きっちり描きこむ必要はありません。大切なのは、自分がアニメーションを制作するときに絵コンテを見てカットの中身をはっきり思いだせることですし、また、グループで作品を作る場合にはメンバーが絵を見てカットの意味を理解できるということです。

わかばちゃん

絵が下手でもいいってきいて安心したよ~

3Dはかせ

下手でもいいのですが、テキトウではいけませんよ。この違い、わかりますか?
絵コンテは設計図ですから、テキトウはいけません。テキトウというのは、深く考えずになんとなく場当たり的に描くということです。絵コンテを描くという作業はアニメーションの「演出」のいちばん最初の段階です。ここで失敗すると作品全体が失敗してしまいますので、作業としてはかなり慎重に、しかし演出としてはときに大胆に描くことが求められます。

わかばちゃん

エンシュツってどういうこと?

3Dはかせ

演出というのは、まだ目に見えない状態のイマジネーションに、ハッキリとした姿を与えて具体化していくことです。演出というと演技をつけていくようなイメージがあるかもしれませんが、それは演出の一部であり、環境にあるオブジェクトや発生する現象を決めたり、カメラの位置やライティング(照明)を決定するのも演出です。観客が目にする作品内すべての細部を決定し、コントロールするのが演出ということなのです。

わかばちゃん

ふーん。

3Dはかせ

前回、字コンテの話をしましたよね。字コンテでたとえば「子どもが小川を跳びこえる」と書いてあったとすると、それを絵コンテにするときには、まず小川はどのくらいの幅で水はどのくらいの量や速さなのか、という環境の設定から考えはじめて、つぎにキャラクターは軽くまたぐようにピョンと跳びこえるのか、それとも勢いをつけて力強くジャンプするのか、そのとき顔はどんな表情なのか、といった演技プランを決め、それを1カットで見せるのか、あるいは複数のカットで見せるのか、というカット割りも考え、さらにはカットごとにカメラの高さやアングルや画角などをどうするのか、といったことも決めなければなりません。

わかばちゃん

うわぁ、やらなくちゃいけないことがたくさんあるんだ…

3Dはかせ

面白いストーリーであっても、演出がダメな場合は面白くない作品になってしまうこともあります。ストーリーがもっている面白さを、最大限に効果的に見せるということが演出のミッションです。前回、ステレオタイプについての話もしましたが、演出にもステレオタイプな演出というのがあります。最初から最後までそれだと、どこかで観たことがある作品のようになってぜんぜん面白くありません。あまり重要ではないカットやシーンはステレオタイプでいい場合もありますが、重要だと思う部分は、じっくり考えて観ている人が思わずハッと感心するような演出をおこないたいものです。

わかばちゃん

ううう、ムズカシイ……

3Dはかせ

そうですね、答えがある世界ではありませんから、いろいろ試してみて自分なりに演出方法を探していくしかありませんね。10人のアーティストがいれば、それぞれに違った10通りの演出があるのです。
そうそう、言い忘れていましたが、1カットをひとつの枠内に描かなければならないという決まりはありません。カット内でいくつかの変化が起きる場合は、その変化の数だけ枠を使って描いてかまいません。

わかばちゃん

そうなんだ。

3Dはかせ

そのほかに、カメラがパン(向きを変えること)や、ズーム(レンズによる拡大・縮小)する場合などは、枠をはみ出して描くことができます。

わかばちゃん

おおっ、なんかすごく迫力ある!

3Dはかせ

絵コンテの上では迫力あるように見えますが、実際に映像にしてみると、そうでもないありきたりな演出ですよ。見た目にだまされないようにしましょう。カメラのテクニックについてはのちほど詳しく説明しますね。

わかばちゃん

ほーい。

3Dはかせ

さて、つぎに絵コンテの《内容》という欄ですが、ここには絵ではなく文字でそのカットの内容の説明を書き入れます。具体的にいうと、キャラクターの動き(演技)や、環境の変化(たとえば雨が降ってくる、とか)や、カメラの移動についての指示や、キャラクターのセリフなどを書きます。
セリフを書く場合は、まずキャラクター名を明記してだれが発言しているのかを明確にして、そのうしろにカギカッコでセリフを書きこみましょう。
また、「フェード・イン」や「フェード・アウト」や「オーバーラップ」といった編集で行なう映像の効果についてもこの欄に書きます。そういった言葉の意味は、第8回で解説しますので、いまはよくわからなくてもとりあえずは大丈夫です。

わかばちゃん

うう、いろいろ書くことがあって、めんどくさいよ~

3Dはかせ

面倒に思うかもしれませんが、画面の欄で描いた絵の意味をおぎない、演出のプランを具体化する部分なので、いい加減に書いてはだめですよ。

わかばちゃん

作品を作るまえに、絵コンテで力つきそうだよぉ……

3Dはかせ

まあ、絵コンテを描くというのは、実際に疲れる作業ではありますよ。しかし、この作業をやっておくことで、アニメーション作りにおける無駄な作業を最小に減らすことができるのも事実なのです。もしも絵コンテがなかった場合、必要のないカットをいくつも作ってしまい、編集段階でそれらを結局捨てるということにもなりかねません。実写映画の場合は、たくさんの素材のなかから実際に使う映像を選びだしますが、アニメーション作品の場合はそういうやりかたをすると膨大なムダが生まれてしまうので、どうしても絵コンテが必要になるのです。絵コンテとは、いわば実写映画が編集段階に映像を選ぶという作業を、前もって紙の上でシミュレート(検討)する作業なのです。

わかばちゃん

な、なるほど…。絵コンテを描いておかないと、もっと疲れることになるんだね。絵コンテの重要さがわかった気がするよ。

3Dはかせ

つぎの説明に進みますよ。絵コンテ用紙のいちばん右の《》ですが、ここにカットごとの秒数を書き入れます。普通は、「2」とか「5」とか整数で書くことが多いのですが、たとえば「8.5」のように、1秒以下の細かい数値を書くこともあります。2Dアニメの場合は8.5秒を「8+12」というように小数点以下を「+(プラス)コマ数」で書くことが一般的です。そのように書いても構いません。

わかばちゃん

うーん、秒数なんてよくわからないよ~

3Dはかせ

ですよね。ですから、ストップ・ウォッチを使って計測するのです。

わかばちゃん

ストップ・ウォッチってスポーツで使うアレ?

3Dはかせ

はい。自分で描いたカットの絵を見ながら、そのカットが始まって終わるまでを心の中でイメージして、ストップ・ウォッチで長さを計るのです。ストップ・ウォッチ自体を見て計ってはいけませんよ。あくまでも、自分の心のなかのカットのイメージの長さを計るのです。

わかばちゃん

そんなのムズカシイよ~!

3Dはかせ

最初は難しく感じるかもしれませんが、慣れればわりと簡単にできるようになりますよ。ひとつのカットを2~3回計ってみて、たとえば1回目「4.35秒」、2回目「4.02秒」、3回目「3.87秒」という結果が出たとしたら、どれも4秒前後ですから「4」と書けばいいのです。あまり細かい数値にはこだわらないようにしてください。ここで書く秒数はあくまでも「目安」だと思ったほうがいいでしょう。
実際にキャラクターのアニメーションづけなどを行っていくと、ここで決めた秒数では足りなかったことが判明するケースも多いです。ですから「とりあえず、このくらいかな?」という感じの秒数で問題ありません。

わかばちゃん

ざっくりでいいんだね。

●演出の原則

3Dはかせ

さて、ここまで絵コンテ用紙の使いかたを説明してきました。いちおう、なんとなくわかってもらえたのではないかと思います。
ここからは、演出にかんしてもう少しつっこんだ話をしたいと思います。
わかばちゃんは、画面の右と左で意味が違う、というのを知っていますか?

わかばちゃん

えーと、たしか右はおハシをもつほうで、左は……

3Dはかせ

たとえば、画面の右側からキャラクターがやってきた場合と、左側からやってきた場合、印象は違いますか?

わかばちゃん

うーん、ビミョーにちがう気がするかな。なんとなく…

3Dはかせ

理由はなぜでしょうか?

わかばちゃん

わかんない。

3Dはかせ

その理由は、意外とシンプルです。わたしたちの心臓の位置によるものなのです。

わかばちゃん

心臓? わかばちゃんにも心臓あったけ?

3Dはかせ

わかばちゃんのことは知りませんが、人間の心臓はふつうは左側にあります。心臓は人体のなかでもっとも重要な臓器なので、普段は意識していなくても無意識に心臓を守ろうとする姿勢をとるものなのです。右からなにかが来た場合、心臓から遠いのでそれほど警戒しませんが、左からなにかが来ると、とっさに心臓を防御しようする反応が無意識のうちで起きます。
そういった無意識的な反応と連動して感情にも変化が起きます。右にあるものは、「安全」「大丈夫」「やさしい」「OK」などのポジティブな感情を生み、左にあるものは「危険」「怖い」「やばい」「ダメ」などのネガティブな感情を生みます。
この違いが、画面の「右」と「左」の印象を決めているのです。

わかばちゃん

へ~、そうなんだ。

3Dはかせ

ですから、右からやってくるキャラクターは、わたしたちはスンナリ受けいれることができます。反対に、左からやってくるキャラクターはなんかイヤな感じがしてしまいます。この印象の違いを利用して、演出をおこなうときに一般的には、主人公のように感情移入させたいキャラクターは右から登場させ、悪役のようなキャラクターは左から登場させます。
演劇では、舞台の右側を「上手(かみて)」と呼び、左側を「下手(しもて)」と呼びますが、これは「右」と「上」が、そして「左」と「下」が同じ意味(価値)であることを表しています。

わかばちゃん

じゃあさ、主人公はいつも右側にいなきゃいけないの?

3Dはかせ

そんなことはありませんよ。左はネガティブな位置ですから、たとえば主人公が負けそうになっているとか大きなピンチに陥っているときには、左側に置くとその感じが伝わりやすくなります。
そして、主人公が立場を逆転して優位に返り咲くときは、左側から右側に移動させるのです。その動きが観客にダイナミックで劇的な印象を与えることになります。

わかばちゃん

ほほう。

3Dはかせ

絵コンテを描くときには、いつもこの「右」と「左」の効果を意識しながら描いてください。じつをいうと、画面のど真ん中、中央にキャラクターや物を置くのは、構図としてはあまり良くありません。中央というのは、インパクトはあるのですが、自己主張が非常に強く、また、あまりにも安定感がありすぎるので、特別な意味をもたせたい場合以外は、中央に置くことは避けたほうがいいのです。中央から少し右か左のほうにズラした構図のほうが自然な感じに見えます。

わかばちゃん

了解っす。

3Dはかせ

ほかにも、演出をするさいの原則はいろいろあります。
たとえば、右から来たキャラクターが次のカットでは左からやってきたりすると、これは映像的にうまくつながりません。カットが変わって別のキャラクターが来たのかな、と観客には誤って認識されるかもしれません。カットの前後でうまくつながった映像にするためには、動きの方向性を統一する必要があります。これは大事な原則です。

わかばちゃん

なるほど。

3Dはかせ

方向性を統一するだけでなく、一連の動きが続くシーンの場合、カットとカットのあいだの速度感を統一することも大切です。カットが切りかわったことを感じさせないくらいに自然でスムーズなカット割りを心がけるようにしましょう。

わかばちゃん

ほかには?

3Dはかせ

ほかには「イマジナリー・ライン」の原則というのもあります。イマジナリー・ラインというのは、会話している2人のキャラクターを結んだ線のことです。2人の会話の場面を演出する場合、カット・チェンジのさいにカメラ(視点)はこの線をまたいでしまってはいけません。つまり、カメラ(視点)はイマジナリー・ラインの右か左かどちらか一方の空間だけで動くことが許されるのです。

わかばちゃん

どうして?

3Dはかせ

イマジナリー・ラインをこえると、キャラクターAが向いている方向とキャラクターBが向いている方向が一致してしまい、会話しているようには見えず、観客が混乱してしまうからです。ただし、カット割りをせず同一カットのなかでカメラが移動してイマジナリー・ラインをこえるのはOKです。動きがつながっているため、観客は理解してくれます。

わかばちゃん

いろんなルールがあるんだね。

●カメラのテクニックいろいろ

3Dはかせ

いまカメラについて少し触れましたが、ここからはカメラについてより詳しく見ていきましょう。カメラは画面の構成を決定する要素としてきわめて重要です。演劇の場合はカメラというものを考える必要はありませんが、映画にはカメラという本質的な要素があります。それが演劇と映画の決定的な違いです。アニメーションも映画のなかに含まれますから、カメラを意識してつくらなければなりません。カメラの知識は絵コンテを描くさいに不可欠なものなのです。

わかばちゃん

でもさでもさ、じっさいにホンモノのカメラがあるわけじゃないんでしょ? 3DCGアニメーションって。

3Dはかせ

そのとおりです。実際のカメラがあるわけではありません。しかし、仮想のカメラがあります。

わかばちゃん

かそうのカメラって……それって、つまり、ないってことじゃないの?

3Dはかせ

いえいえ、仮想というのは「ない」というのとは違います。たしかに物質としては存在していませんが、データとしては存在しているんです。

わかばちゃん

見えぬけれどもあるんだよ?

3Dはかせ

そうです。カメラというのは、いわば作者の視点であり、同時に観客の目でもあります。演劇では、観客は俳優たちに近づいていってその顔を間近で見ることはできませんが、映画ではカメラによってそれが可能になります。映画のカメラは、作品の世界のなかを自由に動くことができ、観客と被写体の距離を自由に設定することができます。言うならば、観客を作品世界のなかに連れこむことができるということです。この映画という形式の独自の性質を利用しない手はありませんよね。
ただし、3DCGの場合、カメラの自由度が「高すぎる」というちょっと困った問題があります。

わかばちゃん

えっ、自由だといけないの?

3Dはかせ

これは、3DCGのアニメーション全体に言えることでもあるのですが、3DCGは現実の物理法則にしばられることがなく、きわめて自由に動かすことができるのですが、それゆえに、人間にとっては非現実的な奇妙なものに見えてしまうことがしばしばあります。自分が実際に生きている世界の法則と作品内の法則が一致していないから奇妙に感じるのでしょうね。それを理解したうえで3DCGの自由度をあえて利用すれば、3DCGでしかできない面白い作品を生みだせる可能性はあります。が、最初のうちは、なるべく現実的な目で見てヘンに感じないような映像を目ざすのがいいでしょう。

わかばちゃん

どうすればいいの?

3Dはかせ

手っとり早いのは、実写映画を観てカメラをまねる、というやりかたです。現実的な映像をつくるには、現実のカメラを参考にするのがもっともシンプルでもっとも強力です。

わかばちゃん

でもさ、実写映画をみても、どうやって撮ってるのかよくわかんないんだよね~

3Dはかせ

それはそうかもしれませんね。最低限の基礎知識がなければ実写映画を観てもそこから必要な情報を抽出できませんよね。
では、カメラの基礎的なテクニックをおさえておきましょう。映画でのカメラ・テクニックは、つぎのようないくつかの要素に分解できます。
【1】フレーミング
【2】画角
【3】高さ
【4】アングル
【5】動き
【6】フォーカス

わかばちゃん

なんか複雑ぅ~

3Dはかせ

カメラのテクニックはたしかに複雑です。頭だけで理解しようとするとよくわからくなると思うので、実際にデジタルカメラを使っていろいろなものを撮影してみるとカメラの特性というものが体感的につかめるようになってオススメですよ。

わかばちゃん

スマホとかのカメラでもいいの?

3Dはかせ

スマホのカメラでできることには限界がありますが、それでも構いません。
カメラについて短い時間で解説することは容易ではありませんが、以下、上の6つの要素について、とくに絵コンテにかかわってくることを中心におおまかに説明していきたいと思います。

わかばちゃん

うむ、説明したまえ。

3Dはかせ

まず【1】の「フレーミング」というのは、画面のワクのなかに被写体をどういうふうにおさめるか、または、どう切り取るのか、ということです。さきほど右と左の原則について説明したように、画面のなかにおける被写体の位置によって印象が変わってきますし、被写体が画面のなかで大きく見えているか小さく見えているかでも、印象はまったく違います。そういう印象の違いをよく吟味してフレーミングを決定しなければなりません。

わかばちゃん

フレーミング左手の法則、なんつって。

3Dはかせ

【2】の「画角」というのは、言いかえるとカメラの「レンズ」をどのように設定するかということです。レンズは基本的なタイプとして「標準レンズ」「望遠レンズ」「広角レンズ」の3種類があります。レンズが違うだけで画面の印象は大きく変わってきますから、これらの違いはしっかりと理解しておいてください。
一般的には、客観的に状況を見せたい場合には広角レンズを使い、反対に、主観的な絵を見せたい場合は望遠レンズを使うことが多いです。標準レンズは、わたしたちの眼で実際に見ている感じに近いので、どんな場面にでも幅広く使えます。
「ズームレンズ」という画角を変化させることができるレンズもあり、これもときどき使われます。広角から望遠へと変化させることを「ズームイン」、望遠から広角へと変化させることを「ズームアウト」といいます。

わかばちゃん

ズームインっ!

3Dはかせ

【3】の「高さ」というのはカメラの高さのことです。どのカットでもカメラをどのくらいの高さに置くのか、つまりはどの高さで被写体を見せたいのかということを決める必要があります。被写体であるキャラクターが立っていれば、そのキャラクターの目の高さぐらいにカメラを置くというのがひとつの基準でしょうか。もちろん、そのシーンやカットの状況を表現するのに適切と思われる高さを選ぶべきです。

わかばちゃん

了解っす。

3Dはかせ

【4】の「アングル」は、カメラの角度のことです。見上げているのか、見下ろしているのかとか、そういうことです。上のほうを見上げるように撮影することを「アオリ」といい、逆に、見下ろすように撮影するのを「フカン」と呼びます。
【5】の「動き」はカメラ自体の移動のことです。カメラが固定しているのか動いているのか、これは大きな違いです。固定しているカメラのことを「フィックス」といいます。大昔はフィックスしかありませんでしたが、技術の進歩により「動きのあるカメラ」が増えてきて、最近では手でもって歩いて撮影したり、空の上から撮影するなんてことも、まったく珍しいものではなくなりました。それでも、やはりフィックスが基本の基本だと思っておいてください。

わかばちゃん

わかったっす。

3Dはかせ

「動きのあるカメラ」のなかでよく使われるのは、パン、ティルト、ドリー、トラック、クレーンです。
パンはカメラを水平方向に回転移動させることです。人間にたとえていうと首をヨコにふる動きです。広い風景を見せるときなどに使います。被写体の動きに合わせてパンすることは「つけパン」といいます。
ティルトはカメラを垂直方向に回転移動させることです。人間なら首をタテにふる動きですね。高い建物などを見せるときなどに使います。日本ではティルトもパンと呼ぶ場合も多く、その場合は見上げる動きを「パン・アップ」、見下ろす動きを「パン・ダウン」といいます。
ドリーはカメラが被写体に向かって前進する、または後退する動きです。前進するのを「ドリー・イン」、後退するのを「ドリー・バック」といいます。(同じ動きを「トラック・アップ」「トラック・バック」と呼ぶこともあります)
トラックはドリーと同じような移動撮影の一種で、ドリーが前後方向の動きであったのに対し、トラックはヨコ方向の移動です。トラックのなかでも、被写体が動いていて、その動きと同じくらいの速度で平行して撮影することは「フォロー」といいます。
クレーンはカメラの高さがどんどん上がっていったり、逆に下がっていく撮影方法です。上がるのを「クレーン・アップ」、下がるのを「クレーン・ダウン」といいます。

わかばちゃん

ふーん、いろいろあるんだねぇ。おぼえるのが大変だよぉ…

3Dはかせ

これらの動きは単体でも使えますが、2つ以上を組み合せて使うこともできます。
ただ、注意してほしいのは、カメラはやたらめったら動かせばいいというものではなく、カットにふさわしい動きを与える必要があるということです。カメラの動きはそれぞれ、観客に与える印象が異なります。その違いをよく考えたうえで動きをつけるようにしてください。また、3DCGアニメーションではカメラを自由に動かせるという利点がある反面、カメラの動きが多くなればなるほど、制作期間が増えていくという問題点もありますので、そこも注意してくださいね。

わかばちゃん

ほーい。

3Dはかせ

【6】の「フォーカス」は、カメラの焦点(ピント)に関するテクニックです。焦点がボケた画から次第に焦点を合わせていくのを「フォーカス・イン」、逆に焦点が合った画からボケた画にしていくのを「フォーカス・アウト」といいます。同一の画面のなかで被写体Aから被写体Bに焦点を移動させることを「ピン送り」といいます。
フォーカスは、画角とも関係があり、一般的にいって広角レンズは画面全体に焦点が合い、望遠レンズは焦点が合う範囲が狭い、という特徴があります。前者を「被写界深度が深い」、後者を「被写界深度が浅い」と言い表します。浅いと被写体の周囲がかなりボケた感じになります。

わかばちゃん

おぼえることがいっぱいありすぎっす!

3Dはかせ

そうですね。こういったテクニックについては映画を観るなどして、実際にどのように使われていて、そこからどんな印象を受けるのかを楽しみながら研究してみるといいと思いますよ。

わかばちゃん

じゃあ、さっそく映画見てみる。なに見よっかな~♪

3Dはかせ

さて、今回は絵コンテの描きかたをひととおり見てきました。ここまでの説明でわかってもらえたと思いますが、絵コンテは映画の発展の歴史にもとづくさまざまな約束事(ルール)をふまえて描く必要があります。「約束事なんて破壊してやる!」とはりきってみても、それを実行するにはまず約束事を知らなければはじまりませんよね。こまかい約束事を全部解説することはできませんので、より詳しく学びたい人は市販されている「絵コンテ集」などを実際に見て、具体的な描きかたを勉強することをオススメします。

わかばちゃん

わかった、じゃあ、絵コンテ集も見てみる!

3Dはかせ

では、今回はここまでです。わかばちゃん、お疲れ様でした。

わかばちゃん

おつかれさまでした~

第5回・Production 01【モデリングとマテリアル】は8月末ごろのアップロード予定です

第5回 Production 01

モデリングとマテリアル

●モデリングとは

3Dはかせ

こんにちは、3Dはかせです。

わかばちゃん

みんなのアイドル、わかばちゃんだよ!

3Dはかせ

この講座も5回目になりましたね。前回まではおもにプリ・プロダクションについて話してきました。今回からはプロダクション、つまり実際の3DCG制作についてお話していきます。

わかばちゃん

待ってました!

3Dはかせ

今回あつかうのはモデリングマテリアルです。この2つはセットのようなものだと考えてください。まずはモデリングから見ていきましょう。
わかばちゃん、モデリングとはどういう作業でしょうか?

わかばちゃん

モデリング……リング……。あ、ドーナツと関係あるんじゃないかな?

3Dはかせ

ぜんぜん関係ありません。モデリングとは、3DCGでキャラクターや環境などの外見の形状を作っていく作業のことです。そうですね…、彫刻家がおこなう作業をデジタルに置きかえたものとイメージしてもらえればよいかと思います。

わかばちゃん

じゃあ、ネンドをこねるみたいにつくるの?

3Dはかせ

最近はそういうタイプのソフトウェアもありますが、今回はもう少し古典的で基本的でシンプルなモデリングの方法を紹介します。
ちなみに、これからわたしが説明で使用するソフトウェアは、Autodesk社の「3ds Max(スリーディーエス・マックス)」という統合型3DCGソフトウェアです。世界でもっともユーザー数が多い3DCGのソフトウェアと言われています。3ds Max以外にもいろいろな3DCGソフトウェアはありますので、3ds maxを使わなければいけないということではありません。ほかには、たとえば、同じくAutodesk社の「Maya(マヤ)」や、無償で使うことができる「Blender(ブレンダー)」や、国産の「Shade 3D(シェード・スリーディー)」などがあります。

わかばちゃん

どこがちがうの?

3Dはかせ

機能も少しづつ違いますし、得意としている表現も異なります。しかし、3DCGに対する基本的な考え方には大きな違いはありません。モデリングやマテリアルという概念も共通していますし、次回以降にお話しするリギングやライティングやレンダリングという概念にかんしてもほぼ共通しています。

わかばちゃん

おおまかには同じなんだね。

3Dはかせ

はい。とはいえ、いちばん大きな違いは価格でしょうか。3DCGアニメーションは実写映画に比べれば制作費をおさえることができますが、それでもソフトウェアやハードウェアにはあるていどお金がかかってしまいます。最初のうちは無償で使うことができるソフトウェアを使うのもひとつの手かもしれません。

わかばちゃん

わかばちゃん、あんまりお金もってないんだよね~

3Dはかせ

学生であれば学生向けの低価格版を購入できる場合もありますし、そうでなくても、無償のトライアル(試用)版を期間限定で使うことができたりしますよ。

わかばちゃん

なるほど、ソフトを手に入れる方法はいろいろあるんだね。

●モデリングをする前に…

3Dはかせ

では、さっそくモデリングをしてみましょうか。

わかばちゃん

わーい。

3Dはかせ

おっと、その前に、モデリングで押さえておくべき大切なことを確認しておきたいと思います。わかばちゃん、モデリングではなにが大切でしょうか?

わかばちゃん

わかりません!

3Dはかせ

一言でいえば「リアリティ」です。

わかばちゃん

リアリティってなに?

3Dはかせ

リアリティとは「ほんとうらしさ」のことです。ただし、間違えないでほしいのは、本物そっくりに写実的に3DCGを作ることがリアリティではない、ということです。もちろんそういう3DCGもありますが、わたしたちが3DCGアニメーションで目ざしているのは実写映画の代替物などではなくて、ユニークなアニメーション作品ですよね。そのような作品に過剰な写実性は必要ありません。

わかばちゃん

じゃあ、どうすればいいの?

3Dはかせ

大切なのは「本質」を伝えるということです。

わかばちゃん

ホンシツ……?

3Dはかせ

簡単にいえば、その物体がもっている「意味」のことです。わたしたちは、なにかを見てすぐに「石だ」「花だ」「犬だ」と意味を理解しますよね。考えてみればこれはちょっと不思議なことです。物体のほうにはそんな情報は書かれていないわけですから。

わかばちゃん

たしかに……

3Dはかせ

ということはつまり、わたしたちのほうが物体に意味を与えていると言えるわけです。3DCGでなにかを作る場合、その物体の「意味」を見る人に正確に伝えることが大切です。それが「本質」を伝えるということです。

わかばちゃん

それって、どうすればいいの?

3Dはかせ

本質を伝えるには、アーティスト自身が本質をちゃんと把握しておかなければいけません。そのためには、第一に、自分が目にするものの観察をつねに欠かさないことです。物体を見るとき、なんとなく見るのではなく、その物体の「いちばんの特徴」をとらえようとして見ることが大切です。その特徴に本質が表れているはずなのです。また、細部(ディテール)の観察もおこたってはいけません。細部もまた、その物体をその物体らしく見せている要素のひとつですから。

わかばちゃん

了解っす。

●モデリングをしよう

3Dはかせ

では、いよいよ実技のほうに入っていくとしましょう。

わかばちゃん

やった~

3Dはかせ

まずは作るものの資料を用意しましょう。実物があればそれを用意するのがベストですが、実物がなければ写真を用意しましょう。写真はたくさんあったほうがいいですね。実物が存在しないもの、つまり自分が創作したキャラクターなどの場合は、デザイン画やスケッチなどを用意しましょう。現実のなにか(たとえば動物や機械や果物など)をモチーフとしてキャラクターをデザインした場合は、モチーフにしたものの資料も参考として用意しておきましょう。

わかばちゃん

ほーい。

3Dはかせ

モデリングという作業は、この「資料集め」がとても大切です。これをおこたるとモデリングのクオリティが下がってしまいますので、面倒でもあるていどの時間をかけて質の高い資料を集めるようにしましょう。

わかばちゃん

資料はインターネットで集めてもOK?

3Dはかせ

もちろんOKですが、インターネットだけでは集めきれない場合もあります。そういう場合は図書館や書店や古本屋で資料になりそうな本を探してみましょう。しかし、どうしても資料が入手できない場合は、似ているものを参考にして作るしかありません。

わかばちゃん

で、今日はなにを作るの?

3Dはかせ

今回は下のスケッチのような古い木製のイスをモデリングすることにします。

わかばちゃん

い―っすね~

3Dはかせ

まず、座る丸い部分を作りましょう。これは「円柱」を加工して作ります。標準プリミティブ(3DCGソフトウェアが最初から用意しているオブジェクト)の円柱を作ってください。座る部分に形を似せて薄い円柱にしてくださいね。「高さセグメント」の数は1にし、「側面」の数は32ぐらいにしましょう。

わかばちゃん

作ったっす!

3Dはかせ

そうしたら、その円柱の角を丸くしましょう。まず、円柱を「編集可能ポリゴン」に変換します。編集可能ポリゴンにすると、それぞれのポリゴンやエッジや頂点を編集(変形)することができるようになります。変換したら、丸める部分のエッジをすべて選択し、「面取り」をかけてください。エッジセグメントは3に設定して、円柱の角がなめらかになるようにしましょう。

わかばちゃん

角は丸くなったけど、なんか、面がカクカクしてるけど、いいの?

3Dはかせ

ポリゴンを全体的にスムーズにしたいので、すべてのポリゴンを選択して「スムージンググループ」を1にします。「自動スムーズ」を使うと簡単にできるはずです。

わかばちゃん

できた。

3Dはかせ

これで座る部分はできました。つぎはイスの脚を作りましょう。
「スプライン」のひとつである「ライン」で脚の断面を描きます。断面といっても、下の図のように半分だけでいいですよ。

わかばちゃん

どうして半分でいいの?

3Dはかせ

このラインは回転させるので半分でいいのです。ラインを描いたら「レイズ」というモディファイヤ(調整機能)を適用してください。
それで回転体ができたはずです。軸の位置によって回転体の幅が変わりますので、ほどよい太さに調整しましょう。

わかばちゃん

できたよ。でも、へんな形……

3Dはかせ

形が気に入らない場合は、ラインの頂点やハンドルを動かして形状を整えてください。そういう調整は重要ですので、あせらずに丁寧におこないましょう。形状を整えたら、編集可能ポリゴンにして上下の穴を「キャップ」機能でふさいでおきましょう。

わかばちゃん

ほーい。

3Dはかせ

脚ができたら、それのクローンを3つ作りましょう。しかしその前に、位置を調整し、座る部分にくっつけておきましょう。垂直ではおかしいので、少し外側にかたむけてイスの脚らしくしてください。そうしたら、脚と座る部分を「親子関係」にしましょう。「リンク」という機能を使って脚を「子」に、座る部分を「親」にしてください。そうすると、親を動かせば子が自動的についてくるようになります。

わかばちゃん

ほんとだ。

3Dはかせ

脚の複製を作ります。脚の「参照座標系」(どこを基準に動かすかという設定)を「親」の「中心」に切りかえて、水平方向に回転させてクローンを3つ作りましょう。そのとき、クローンのタイプを「インスタンス」にするのがポイントです。

わかばちゃん

インスタント…? お湯をかけるの?

3Dはかせ

かけません。インスタンスというのは、いわば見かけ上のクローンであり、ひとつのオブジェクトの形状に変更を加えれば、ほかのインスタンス・オブジェクトも同じように変更されるという便利なものです。

わかばちゃん

へー、おもしろいね。

3Dはかせ

同じ形のものをたくさん作る場合はインスタンスにしておくと非常に便利ですよ。
さて、脚と脚のあいだにある支えも作りましょう。これは円柱を少し加工すればできますね。ひとつ作ったら、これもインスタンスでクローンを作って、望みの位置に配置しましょう。

わかばちゃん

できたよん。

3Dはかせ

ここまででイスの下半分はできました。つぎは背もたれの部分を作っていくとしましょう。背もたれは標準プリミティブの「ボックス」を加工して作ることにします。まずは、適当な大きさの横長のボックスを作ってください。

わかばちゃん

ほれ。

3Dはかせ

横幅のセグメントを10ぐらいにしておきましょう。これは、あとで曲げるからです。セグメントがないと曲げることができませんよ。曲がるストローのジャバラ部分と似たようなものです。

わかばちゃん

なるほど。

3Dはかせ

そのボックスを編集可能ポリゴンに変換してください。ここで「シンメトリ」というモディファイヤを適用します。そうすると、鏡にうつしたように左右対称の形になります。この方法でモデリングをすれば、右か左の半分だけ作ればいいので時間の節約になりますよ。

わかばちゃん

楽チンでいいね!

3Dはかせ

頂点を移動して背もたれの形を作っていきましょう。だいたいの形ができたら、角ばった部分を「面取り」しましょう。まずは4ヶ所。それから、周囲をグルッと。

わかばちゃん

こんなザックリした形でいいの? もっとこうツルッとした感じじゃないの?

3Dはかせ

大丈夫です、問題ありません。ここで「メッシュスムーズ」というモディファイヤを適用します。「反復」は2にしましょう。すると、角が丸くなってとてもなめらかになりました。

わかばちゃん

おお~

3Dはかせ

メッシュスムーズは非常に強力なツールであり、表面がなめらかな有機的なデザインの物体をつくる場合によく使います。しかし、使うとポリゴン数が一気に増えますので、使わなくてもすむ場合は使わないように工夫しましょう。

わかばちゃん

ポリゴンが増えちゃダメなの?

3Dはかせ

あまり増えないほうがいいですね。ポリゴンが増えればデータ量も増えてパソコンに負担をかけることになります。最近のパソコンは高性能ですが、それでも扱えるポリゴンの数には限界がありますので、ポリゴンを少なくできる場合は少なくしたほうが望ましいですね。

わかばちゃん

そうなんだ。

3Dはかせ

いま作ったオブジェクトを曲げて背もたれらしいカーブをつけましょう。曲げる場合は「ベンド」というモディファイヤを使用します。どうですか、うまく曲がりましたか?

わかばちゃん

なんかヘンな方向に曲がっちゃった……

3Dはかせ

そういう場合は「ベンド軸」を変えてみましょう。3DCGのオブジェクトはX・Y・Zの3つの「軸」をもっていますので、どの軸に対して操作をおこなうかで結果がまるで変わってしまうのです。どうですか、うまくいきましたか?

わかばちゃん

うまくできた!

3Dはかせ

ここまでできたら、つぎは、背もたれと座る部分をつなぐ支柱を作ります。支柱は2種類ありますよね。
まずは、シンプルなほうを作りましょう。これは円柱をそのまま使います。円柱を作ったら、インスタンスで4本に増やしましょう。上のほうを少しだけ細くしたいので「テーパ」というモディファイヤを適用します。テーパの量は-0.3ぐらいでいいでしょう。

わかばちゃん

これは簡単だね。

3Dはかせ

そうしたら、もう1種類の支柱も作りましょう。こちらは脚のデザインに似ているので、脚のモデルを流用することにします。脚のモデルから一本クローンを作成しますが、ここでは「インスタンス」ではなく「コピー」にします。

わかばちゃん

えっ、どうしてインスタントじゃないの?

3Dはかせ

インスタントじゃなくてインスタンスですよ、わかばちゃん。ここでインスタンスにしないのは、形状を編集するからです。すでに完成している脚のモデルには変更をくわえたくないのでコピーにするのです。

わかばちゃん

なるへそ。

3Dはかせ

コピーしたオブジェクトを上下ひっくりかえして、「不均等スケール」をかけて細くします。デザイン的に不要なポリゴンは削除して、頂点を動かして形を整えましょう。

わかばちゃん

できたっす。

3Dはかせ

では、その支柱を座る部分と背もたれのあいだに配置しましょう。それができたら、「ミラー」ツールを使って左右反転したクローンを作りましょう。この場合はクローンのタイプをインスタンスにしておきます。そのクローンもうまく配置してください。
これで、イスのパーツのモデリングはすべて完了しました。どうですか、うまくイスができましたか?

わかばちゃん

ちょっとヘンな部分もあるけど、イスできたよ!

3Dはかせ

いまの状態だと、ヘンな部分もあるかと思いますので、形状やサイズや位置などの微調整をしてください。それが終わったら、データの保存をしておきましょう。保存はとても大事ですよ。

わかばちゃん

保存っ!

●マテリアルとは

3Dはかせ

モデリングが完成したら、つぎはマテリアルの設定に進みましょう。マテリアルとは「材質」のことで、そのオブジェクトがどういう物質でできているのか、視覚的にわかるように表面の情報を設定していきます。木であれば木らしい質感を、鉄であれば鉄らしい質感を与えるのです。この作業によって、3DCGのオブジェクトは格段にリアリティをもちます。

わかばちゃん

なるほど。

3Dはかせ

では、先ほど作ったイスのモデリングに木とペンキのマテリアルを与えることにしましょう。つまり、ペンキを塗られた木のイスにするのです。イメージとしては古いイスですから、ところどころペンキがはげた感じにしてみましょう。

わかばちゃん

ラジャー!

3Dはかせ

3DCGの物体の質感を決める重要な要素として「テクスチャ」があります。

わかばちゃん

てくす茶、ってどんなお茶? おいしいの?

3Dはかせ

お茶ではありません。テクスチャというのは3DCGオブジェクトに貼りつける画像のことです。画像は写真でもいいですし、自分で描いた絵でもいいです。JPGやBMPやPNGなどの一般的な画像形式ならばどんな画像でも貼りつけることができます。

わかばちゃん

形式はなにがいいの?

3Dはかせ

JPGは圧縮によって画質が劣化するのでオススメできません。画質の劣化がないPNGかTGAかTIFがいいでしょう。これらの形式はアルファチャンネルをもっているので便利ですよ。

わかばちゃん

あるちゃふぁんねる?

3Dはかせ

アルファチャンネルです。一般的な画像形式はR(赤)、G(緑)、B(青)の3つのチャンネルを持っていますが、アルファチャンネルは4番目のチャンネルで、透明度の情報をもったチャンネルなのです。

わかばちゃん

ふーん、そうなんだ。とりあえずさぁ、テクスチャってのをじっさいに貼ってみせてよ。

●UV展開とは

3Dはかせ

そうしたいところですが、テクスチャを貼る前にやっておかなければならないことがあります。それは「UV展開」です。

わかばちゃん

UVって紫外線のこと?

3Dはかせ

まったく関係ありません。オブジェクトの展開図を作って、テクスチャをきれいに貼れるようにする作業のことです。たとえて言うと「アジの開き」を作るようなものです。立体物を一枚の平面に広げてやるのです。

わかばちゃん

どうやってやるの?

3Dはかせ

まずは、オブジェクトにチェック(格子模様)のパターンのマテリアルを割り当ててみてください。チェックの繰り返しは縦横ともに10回にします。すると、次のようになります。

わかばちゃん

ほう。

3Dはかせ

これでテクスチャがどのように貼られるか、視覚的におおよそ把握できるようになります。現状だと、チェックの大きさがバラバラですよね。これを、それぞれのチェックがほぼ正方形で、かつ、同じくらいの大きさになるように調整していきます。
その前に、いまは複数のオブジェクトでできているイスをひとつのオブジェクトにしましょう。

わかばちゃん

どうやるの?

3Dはかせ

座る部分のオブジェクトを選択し、編集可能ポリゴンの「アタッチ」という機能で、ほかのすべてのオブジェクトをアタッチ(結合)しましょう。これでイスが一個のオブジェクトになりました。このオブジェクトに対して「UVWアンラップ」というモディファイヤを適用しましょう。これでUV展開ができるようになります。

わかばちゃん

ふむふむ。

3Dはかせ

ではUV展開を実際にやってみましょう。少し面倒な作業ではありますが、コツをつかめばそれほど難しいものではありません。大事なポイントは、ポリゴンが重ならないようにすること、そして、チェックの大きさがだいたい同じになるように広げていくこと、この2点です。広げ終わると、下の図のような感じになります。

わかばちゃん

アジのひらきじゃなくて、イスのひらきだね!

3Dはかせ

これでテクスチャが貼れるようになりました。では実際に貼ってみましょう。木目のテクスチャを貼ってみます。「拡散反射光(ディフューズ)」に適当な木目のテクスチャを入れてみてください。

わかばちゃん

おお、木っぽい! テクスチャ、すげー。

3Dはかせ

つぎに、マテリアルの「鏡面反射光(スペキュラー)レベル」と「光沢(グロッシー)」の数値を少し調整しましょう。鏡面反射光(スペキュラー)というのは、いわゆる「ハイライト」のことです。すなわち、物体に光があたってもっとも明るくなっている部分のことです。光沢(グロッシー)はそのハイライトの大きさを調整する部分です。
とりあえず、鏡面反射光レベルを40に、光沢を25に設定してみましょう。

わかばちゃん

ツヤがでたね。

3Dはかせ

さきほどの木目のテクスチャと同じものを「バンプ」にも適用してみましょう。バンプとはオブジェクトの表面にデコボコを表現するものです。デコボコといっても、実際にオブジェクトを変形させるわけでなく、目の錯覚を利用したものであり、やりすぎると不自然になりますから、その点には注意してください。実際にバンプにテクスチャを入れてみましょう。

わかばちゃん

なんか、ザラザラした感じになった!

3Dはかせ

これでも十分にイスに見えますが、今回は、さらにひと手間をかけてみたいと思います。「UVWアンラップ」モディファイヤのなかにある「UVWテンプレートをレンダリング」という機能にアクセスしてみてください。ここから、UV展開の情報を画像として出力することができます。この画像を使って、Photoshopなどの画像編集ソフトで自作のテクスチャを作るのです。

わかばちゃん

これを参考にしてテクスチャをえがいていくんだ~

3Dはかせ

画像編集ソフトを開いて、いま出力した画像を読み込んでください。これから作るのは「マスク」と呼ばれる種類のテクスチャです。

わかばちゃん

マスク?

3Dはかせ

画材でマスキングテープというのがありますよね? それと同じで、マスクは影響を与えたくない部分をおおって影響が出ないようにするためのテクスチャです。これを使って、ペンキがはげた感じを表現します。ペンキが残っている部分を「黒」、ペンキがはげている部分を「白」で描いてみましょう。まずは完全な黒いレイヤーを置き、そのうえに透明レイヤーを重ねて白のブラシでペイントしていきましょう。

わかばちゃん

ラジャー!

3Dはかせ

マスクができあがったら、3DCGソフトのほうにもどり、新規に「ブレンド」マテリアルを作りましょう。ブレンド・マテリアルは2つのマテリアルを混ぜあわせることが可能なマテリアルです。1つ目のマテリアルにさきほど作った木のマテリアルをコピーして入れましょう。そして、2つ目のマテリアルは単色のペンキのようなマテリアルの設定にします。そしてさらに、「マスク」のなかに、画像編集ソフトで作ったマスク用のテクスチャを入れます。
そうして完成したのが、下の図です。

わかばちゃん

おお、お見事。ペンキがはげたイスができたね!

3Dはかせ

マスクは一回ではうまく描けないと思うので、結果を見ながら何度も修正をくりかえしてイメージに近づけていってください。マスクという概念はちょっと理解しにくいかもしれませんが、非常によく使う方法なので、ぜひ覚えて使いこなせるようにしましょう。

わかばちゃん

ほーい。

3Dはかせ

これで、イスのモデリングとマテリアルは完成です。
3DCGソフトウェアによって操作方法には違いがあるので、こまかい操作方法は説明しませんでしたが、それを知りたいかたは自分が使用しているソフトウェアのマニュアルや参考書を見るようにしてくださいね。

わかばちゃん

わかった、見てみる。

3Dはかせ

今回はここまでです。次回は、アニメーションとリギングをやってみましょう。
わかばちゃん、今回もお疲れ様でした。

わかばちゃん

おつかれさまでした~

第6回・Production 02【アニメーションとリギング】は9月末ごろのアップロード予定です

第6回 Production 02

アニメーションとリギング

●アニメーションとは?

3Dはかせ

こんにちは、3Dはかせです。

わかばちゃん

わかば星のお姫さま、わかばちゃんだよ☆

3Dはかせ

今回はアニメーションとリギングをみなさんと一緒にやってみたいと思います。アニメーションについては第1回で少しお話しましたが、わかばちゃん、覚えていますか?

わかばちゃん

おぼえてません!

3Dはかせ

では、おさらいしましょう。そこでわたしは、アニメーションは「生命が存在しないものに生命を吹き込み、まるで生きているように見せること」と説明しました。さらに「生命を吹き込む(アニメートする)ということは、動きを与えるということ」と言いました。アニメーションというのは、簡単にいえば動きを与えることです。

わかばちゃん

ちょっと思いだした。

3Dはかせ

「動きを与える」と言いましたが、もっと正確に言うなら「変化を与える」ということがアニメーションです。動きだけではなく、目に見えるさまざまな変化を描くことがアニメーションだからです。たとえば、信号の色が赤から青に変わるのもアニメーションですし、空気を入れられた風船がどんどん大きくなるのもアニメーションです。

わかばちゃん

アニメーションっていろいろあるんだね。

3Dはかせ

とはいえ、やはり「動き」のアニメーションが、アニメーションのメインだと考えておいてかまいません。今回は、動きのアニメーションのなかでも、とくに基本的な動きをやってみたいと思います。

わかばちゃん

了解っす。

●アニメーションの基本をマスターしよう

3Dはかせ

まずは、とてもシンプルな物体のアニメーションをやってみましょう。ボールを用意してください。大きくても小さくても関係ありません。テニスボールでもピンポン球でもいいですが、ラグビーボールのような特殊な形状は今回はやめておきましょう。それを床に落としてみましょう。垂直にポンポンはずみますね。ではつぎに、前のほうに軽く押し出すように落としてみてください。

わかばちゃん

おりゃ。

3Dはかせ

どんなふうにはずみましたか?

わかばちゃん

んとね、ポーン、ポーンって。

3Dはかせ

はい、何度か床でバウンドして曲線を描いてはずみましたね。そのボールのはずみかたをよく覚えておいてください。覚えたら、3DCGでそれを再現してみましょう。まずは適当なサイズのボールを作ってください。これは簡単ですね。

わかばちゃん

うん。

3Dはかせ

それを地面から1メートルくらいの高さに移動しましょう。そこが出発点になります。
ここからの説明は3ds Maxを使ってやっていきますので、用語は3ds Maxのものになりますが、ほかの3DCGソフトウェアでも似た感じではないかと思います。
では、「オートキー」をオンにして、タイムスライダを20フレームに移動し、ボールを最初の着地点である床の上に動かしてみましょう。そうするとそのフレームに「キー」が打たれるはずです。キーが打たれたフレームのことを「キーフレーム」といいます。「アニメーションを再生」ボタンを押してみましょう。どうですか、ボールが動きましたか?

わかばちゃん

おお、動いた!

3Dはかせ

3DCGのアニメーションはその作業の繰り返しになります。つまり、タイムスライダを任意のフレームに移動してそのフレームでオブジェクトを動かしてキーを作成する、という作業の繰り返しです。

わかばちゃん

いがいとカンタンだね!

3Dはかせ

はい、操作じたいはとても簡単です。では、ボールがポンポンと何度かはずむ動きを作ってみましょう。タイムスライダを40フレームに移動し、ボールを床から数十センチ持ちあげましょう。すでに一度バウンドしたボールですから、最初の高さ(1メートル)より高くしてはいけませんよ。それができたら、スライダをさらに20フレーム進めて、次の着地点へボールを移動しましょう。

わかばちゃん

こういう感じかな…

3Dはかせ

そうやって、とりあえず、20フレームごとに等間隔にキーを作っていきましょう。キーの位置やボールの位置はあとで調整できますので、いまはあまり気にする必要はありませんよ。

わかばちゃん

できたよ。

3Dはかせ

できたら、アニメーションを再生して結果を見てみましょう。どうですか?

わかばちゃん

うーん、なんか、ヘンな動き。ボールっぽくない。

3Dはかせ

はい、たしかに変な動きです。動きがおかしい理由は、速度が適切に調整されていないからです。それを今から調整していきましょう。
物体を落とすと、手から離れた瞬間は速度が遅く、地面に当たる直前にもっとも速くなります。これが落下の動きの法則です。ボールや石などのあるていどの重さがある物体は必ずこの法則に従います。しかし、例外もあるので注意しましょう。それは木の葉や鳥の羽根などのとても軽い物体です。

わかばちゃん

羽根とかはすごくゆっくり落ちるよね。

3Dはかせ

それは「空気抵抗」があるからです。軽い物体は空気の影響を考えてアニメーションをつける必要があります。そういった物体のアニメーションはちょっと難しいですので、挑戦する場合は、まずは簡単なボールなどのアニメーションをマスターしてからにしてくださいね。

わかばちゃん

了解っす。

3Dはかせ

葉っぱや羽根のような軽い物体の動きは、一見デタラメに動いているように見えても、じつはある法則性があります。ゆらゆらと左右に揺れながら落ちていくと思いますが、その速度に注目してみると、最初はゆっくり動いてだんだん速くなり、速くなったかと思うとまたゆっくりになって、つぎに方向を変えてゆっくり動き、また速くなり、そしてまたゆっくりになります。これって、何かの動きに似ている気がしませんか?

わかばちゃん

うーん、なんだろ?

3Dはかせ

たとえば、振り子です。振り子は左右に動きますが、その速度の変化を観察すると、今説明したような「ゆっくり」「速い」「ゆっくり」「速い」……を繰り返していることがわかります。人が歩くときの腕の動きも、これとよく似た動きをします。こういう、始まりと終わりがゆっくりで、中間部分が速い動きのことを「スローイン・スローアウト」と言います。

わかばちゃん

へー。

3Dはかせ

この動きの法則は、いろいろな物体の動きのなかに含まれています。たとえば、自動車。走り始めるときはゆっくりですよね。しかしだんだん速くなっていき、止まるときはまた速度がゆっくりになって止まります。重さのある物体というのは、急に動いたり、急に止まったりすることはできません。

わかばちゃん

クルマは急に止まれない。

3Dはかせ

そのとおりです。アニメーションのもっとも重要なポイントは、スローイン・スローアウトに代表されるような速度の「緩急」を動きに与えてあげることです。そうすることで、動きにメリハリがついて、リアルでいきいきとした動きになります。このような緩急の重要性は、物体やキャラクターの動きに限らず、たとえば「カメラ」の動きにも言えることです。物理法則を無視したカメラ・ワークは不自然に見えるものです。

わかばちゃん

なるへそ。

3Dはかせ

ボールのアニメーションに戻りましょう。ボールの速度を修正します。「モーション」タブ内の「モーションパス」ボタンをオンにしてみてください。ボールの軌道(動きのライン)が表示されましたよね。現状ではウネウネした波のような形になっています。この形はボールの軌道としてはおかしいです。「カーブエディタ」を開いてみてください。このカーブエディタで速度の調整ができます。さっそくやってみましょう。

わかばちゃん

ラジャー!

3Dはかせ

ボールの「Z位置」のカーブ(グラフ)を見てください。Z位置というのは「高さ」に関する数値です。そのカーブのいちばん低い部分にあるキーは、床に当たったときのキーですが、それを全部選択して「接線を高速に設定」ボタンを押します。そうすると、カーブの形が変化します。

わかばちゃん

おおっ、形がかわった!

3Dはかせ

カーブの角度が水平に近いほど速度がおそくなり、垂直に近いほど速度が速くなります。今のカーブはボールが床に当たった瞬間に速度がいちばん速くなり、床から離れて上に上がるほど遅くなる、というカーブになっています。これは物理法則として正しいカーブです。では、アニメーションを再生してみてください。

わかばちゃん

おおっ、ボールっぽい動きになった!

3Dはかせ

これでもボールっぽい動きですが、もう少し改良してみましょう。キーフレームの位置を動かして、ボールがはずむごとに、床に当たるスパンを少しずつ短くしてみましょう。ポーーン、ポーン、ポン……という感じです。

わかばちゃん

もっとリアルな動きになった!

3Dはかせ

これでもじゅうぶんにリアルな動きですが、さらに工夫してもっとボールっぽさを強調してみましょう。

わかばちゃん

どうするの?

3Dはかせ

ボールを変形させるのです。床に当たった瞬間、少し押しつぶしてみましょう。これを「スクワッシュ」と呼びます。そして、上へ飛びあがるときは少し引きのばしてみましょう。これを「ストレッチ」と呼びます。このスクワッシュとストレッチをうまく組みあわせることで、動きがより誇張されて、ボールっぽいやわらかな動きになります。

わかばちゃん

ホントだ~。面白いね!

●キャラクター・アニメーションのいろいろな方法

3Dはかせ

シンプルな物体のアニメーションのやり方を見てきました。ここからは、キャラクター・アニメーションのやり方を見ていきましょう。

わかばちゃん

やった!

3Dはかせ

アニメーションのなかでもっとも複雑で難易度が高いものが「キャラクター」のアニメーションです。自然なキャラクター・アニメーションをつけるためには「演技」についての理解も必要になってきます。

わかばちゃん

エンギ? 茶柱が立ってエンギがいいなあ、みたいな?

3Dはかせ

関係ありません。演技というのは、俳優が舞台や映画でおこなう表現行為のことです。俳優は、自分とはまったく違うキャラクターになりきって行動します。キャラクター・アニメーションも演技と似ています。アーティストが、自分の身体をつかってキャラクターを表現すれば、それは演技と呼ばれますが、自分では動かずに絵やCGのキャラクターにそれをさせれば、それはアニメーションと呼ばれます。

わかばちゃん

なるほどね。

3Dはかせ

最近では生身の役者が演じた動きをそのままデジタル・データとして取り込んでキャラクターに流しこむという「モーション・キャプチャー」という技術もあります。これは映画やゲームで多用されています。この技術の利点は、非常にリアルな動きをキャラクターに行わせることができることと、アニメーションの作業をおこなう時間を短縮できることが挙げられます。

わかばちゃん

じゃあ、それでいいじゃん!

3Dはかせ

しかし、弱点もあります。専用にセッティングされたスタジオが必要ですし、役者(モーション・アクター)やモーション・キャプチャーに関わるオペレーターなど多くのスタッフが必要です。

わかばちゃん

お金がないわかばちゃんにはムリだね……

3Dはかせ

モーション・キャプチャーに頼らなくても、リアルなキャラクター・アニメーションをつける方法はありますよ。
ひとつは、自分で実際に演技をやってみて、それを鏡で見ながらその動きをキャラクターにつけるというやりかた。これはもっとも古典的なキャラクター・アニメーションの方法です。古典的ですが、しかし簡単でもっとも強力な方法です。もし、自分ではできない演技だったり、動きの良し悪しについて客観的な判断が必要な場合は、誰かに演技をしてもらい、それを観察しましょう。
もうひとつは「ロトスコープ」と呼ばれる方法で、少し準備が必要ですが、ビデオカメラで自分かまたは誰かの演技を撮影して、その映像にピッタリ合わせるかたちでアニメーションをつけていくというやりかたです。

わかばちゃん

ほかには?

3Dはかせ

頭のなかの動きのイメージをそのままアニメーションにするというやりかたもありますが、これはアニメーションの経験がかなりないとうまくできないでしょう。頭のなかに多くの動きのライブラリーがあるからこそできる方法です。それができる自信がない場合は、上の2つの方法でやることをオススメします。大丈夫ですか?

わかばちゃん

がってん承知の助。

●リギングとは?

3Dはかせ

では、このあたりで「リギング」についても話しておきたいと思います。

わかばちゃん

エリンギ? きのこの仲間?

3Dはかせ

関係ありません。リギングとは、「リグ」というものをキャラクターなどに組みこむことをいいます。

わかばちゃん

リグってなに?

3Dはかせ

リグというのは、簡単にいえばアニメーションのための「しかけ」です。「装置」や「カラクリ」と呼んでもいいでしょう。からくり人形や自動人形をイメージするとわかりやすいかもしれません。それらの中には人形を動かすための骨格や機械が入っていますよね? 3DCGのキャラクターでも、それを動かすために骨や装置のようなものを組みこむのです。

わかばちゃん

そうなんだ。

3Dはかせ

リグは普通、アニメーションをおこなう者が自分で作らなければなりませんが、ソフトウェアがあらかじめ用意した便利なリグもあります。そのひとつが「Biped(バイペッド)」です。これは、キャラクター・アニメーションのためにあらかじめ用意された人間型のリグです。

わかばちゃん

ヘンなの。ガイコツみたい。

3Dはかせ

Bipedは3ds Maxに用意されていますが、ほかのソフトウェアにも似たような人間型のリグが用意されていたりもしますよ。今回はこのBipedを使って、キャラクター・アニメーションをやってみたいと思います。

わかばちゃん

まってました!

●キャラクター・アニメーションのコツ

3Dはかせ

では、キャラクターがジャンプして小さな溝を跳びこえるアニメーションをやってみましょう。まず、Bipedを1体用意します。身長は150センチメートルくらいにしておきましょうか。
わかばちゃんに質問です。ジャンプするとき、人間はどんな動作をしますか?

わかばちゃん

う~ん、わかばちゃんは人間じゃないから、よくわかんないなあ。

3Dはかせ

まず、ヒザを曲げて、腰を低く落として、腕もうしろに引いて、ジャンプのための勢いをためます。こういう動作をしないと、普通はジャンプすることができません。こういう動作のことを「アンティシペーション(事前運動)」といいます。

わかばちゃん

あ、あんぺ…ていしょん……?

3Dはかせ

アンティシペーションです。なにかの動作をする前にする動作のことです。たとえば、パンチをするときにも、腕を前に出す前に、腕をちぢめてグッとうしろに引く動作をすると思います。そういう動作をすることで運動のエネルギーが大きくなるからです。そういう動作をアニメーションでつけてやることで、キャラクターの動きはとてもいきいきとしてくるのです。

わかばちゃん

なるほど。

3Dはかせ

では、アンティシペーションを意識してジャンプの動きをつけてみましょう。どうですか、うまくできましたか?

わかばちゃん

できたけど……なんか、ものたりない。

3Dはかせ

なにがものたりないのでしょうか?

わかばちゃん

ジャンプしおわって、ピタッと止まるのが、なんかヘン。

3Dはかせ

わかばちゃん、いいところに気づきましたね。たしかに、ピタッと止まるのはヘンです。さっき、わかばちゃんは「クルマは急に止まれない」と言いましたが、人間もクルマ同様、すぐには止まれません。ジャンプして着地するとき、速度と体重でグッと身体全体が沈みこんでから、身体を起こすはずです。

わかばちゃん

あー、そうだよね。

3Dはかせ

止まるときに、物体が予定の位置よりも少しよぶんに行きすぎてから戻る動作を「クッション」といいます。アンティシペーションとは逆のものだと考えてください。
では、このクッションを追加してみましょう。

わかばちゃん

うん、リアルな動きになったね。

3Dはかせ

クッションと少し似た動きに「フォロースルー」というものもあります。例えば、ポニーテールの髪の毛やスカートなどの衣服は、キャラクターが動くと、その動きに引っぱられて揺れるように動きますよね。この動きのことをフォロースルーといいます。

わかばちゃん

クッションとなにが違うの?

3Dはかせ

フォロースルーは、なにかメインの物体に付属したものの動きと考えてください。髪の毛や衣服やアクセサリー、あるいは動物のしっぽや鳥の翼の羽根など、そういったものの動きです。本体よりも遅れて動くのがポイントです。

わかばちゃん

ふむふむ。

●ボーンとスキニング

3Dはかせ

さきほど、リグについて少しお話ししましたが、リグと関係のある「ボーン」と「スキニング」についてもお話ししておきましょう。ボーンというのは日本語でいえば骨ですね。まさにキャラクターにとっての骨の役割をするのがボーンです。

わかばちゃん

さっきのガイコツみたいなヤツは?

3Dはかせ

Bipedですね、あれもボーンの一種です。たくさんのボーンを複雑に組みあわせて作られたリグです。
では、ここではもっとも単純なボーンの構造を作ってみましょう。「作成」タブの「システム」から「ボーン」を選んで、次の図ようなボーンの構造を作ってみてください。

わかばちゃん

できたよ。

3Dはかせ

ボーンは関節をもっていて、自由に曲げ伸ばしができます。ボーンを作ると自動的にボーンどうしに親子関係が設定されますので、親のボーンを動かせば子のボーンもそれについてきて動きます。しかし、アニメーションをつけるときに、逆に、子を動かすと親がついてくるようにしたい場合もあります。たとえば、手を引っぱるとヒジがそれにつられて動くという場合です。そういうときには「IK(インバース・キネマティクス)」というものを設定します。

わかばちゃん

あいけー?

3Dはかせ

はい。IKの設定をするときは、ボーンをあらかじめ少しだけ曲げておくようにしましょう。完全に直線的にボーンが並んでいるとIKがうまく機能しませんので、注意してください。ボーンのいちばん根っこの親を選択した状態で「IKソルバ」のなかの「HIソルバ」をクリックしましょう。そうすると白いラインが表示されます。そのまま、次に先端の子のボーンをクリックします。そうすると親と子のボーンがラインで結ばれて先端に十字型のオブジェクトが作られたと思います。

わかばちゃん

うん。

3Dはかせ

その十字型のオブジェクトを動かしてみてください。親のボーンまで連動して動くはずです。

わかばちゃん

おおっ、すごい!

3Dはかせ

IKの設定はこれで完了です。意外と簡単ですね。
次は「スキニング」をやってみましょう。スキニングというのは、キャラクターなどのオブジェクトの頂点(バーテックス)とボーンを結合させて、ボーンの動きに合わせてキャラクターの手足や首などの部位が変形するように設定することです。少し手間のかかる作業ではありますが、キャラクターがリアルに変形するようにするためにはこの作業をきっちりやっておかなければなりません。

わかばちゃん

了解っす。

3Dはかせ

円柱を作って、さきほどのボーンと重なるように配置してみてください。この円柱をキャラクターの腕だと見立ててスキニングをしてみましょう。キャラクターをボーンによって変形させるときに大切なポイントは、ボーンによって曲げられる部分、たとえば腕や脚などの関節部分にじゅうぶんな「セグメント」が存在することです。

わかばちゃん

セグメントってなに?

3Dはかせ

ポリゴンが分割されていることです。曲がるストローを思い出してください。曲がる部分には細かい節がたくさんありますよね。3DCGのキャラクターもそれと同じです。下の図のように、関節部分にはいくつかのセグメントがなくては、曲げることができません。逆にいうと、モデリングをする時点で、アニメーションのときに曲げたり変形させたりする予定の部分には、必ずセグメントを入れておかなければならないということです。

わかばちゃん

ラジャー!

3Dはかせ

では、円柱に「スキン」モディファイヤを適用してみてください。そして「追加」ボタンを押してボーンを追加しましょう。ボーンの候補が3つ出てくると思いますが「Bone001」と「Bone002」だけを追加します。

わかばちゃん

できた。

3Dはかせ

ボーンを動かしてみてください。円柱もいっしょに変形すると思います。

わかばちゃん

おお!

3Dはかせ

しかし、関節部分の変形のしかたがあまりきれいではありません。これは頂点の「ウェイト」がうまく設定されていないからです。ウェイトというのは、2つ以上のボーンがある場合、それぞれの頂点をどのボーンに対してどれだけの強さで結びつけるか、ということです。ウェイトの最大値は「1」です。2つのボーンがある場合に、ある頂点を、それぞれのボーンに対し均等にウェイトをつけるなら「0.5」づつということになります。

わかばちゃん

なんか、メンドクサいね……

3Dはかせ

画面の上ではウェイトが色で表示されるので、視覚的に確認しながら作業できて、それほど面倒ではありませんよ。実際にやってみましょう。「スキン」モディファイヤ内の「エンベロープを編集」ボタンをオンにしてください。そして「選択」の「頂点」のチェックボックスにチェックを入れておきます。これで各頂点のウェイトを編集できるようになりました。この状態でボーンを選択すると、各頂点のウェイトが色で表示されます。

わかばちゃん

ほう。

3Dはかせ

「ウェイトプロパティ」のなかに「絶対効果」というのがありますね。頂点を選択して、ここに数字を入力するとウェイトを編集することができます。

わかばちゃん

おお、頂点の色が変わった!

3Dはかせ

はい。その色を見ながら調整していきましょう。ポイントは、それぞれの頂点のウェイトの合計が必ず「1」になるように調整することです。たとえば、あるボーンに対して「0.75」のウェイトをつけたら、もうひとつのボーンには「0.25」のウェイトをつけなければありません。合計が「1」に足りていない場合は、ボーンを動かしたときに頂点がうまくついてこないということになってしまいます。

わかばちゃん

なるほど。

3Dはかせ

ウェイトをうまく調整すると、下の図のように関節がうまく曲るようになるはずです。どうですか、うまくウェイトをつけることができましたか?

わかばちゃん

うん、できた。

3Dはかせ

では、今回はここまでです。ソフトウェアのこまかい操作方法はそれぞれのマニュアルを読んで理解してくださいね。
次回は「ライティングとレンダリング」についてお話しします。
わかばちゃん、今回もお疲れ様でした。

わかばちゃん

おつかれさまでした~

第7回・Production 03【ライティングとレンダリング】は10月末ごろのアップロード予定です

第7回 Production 03

ライティングとレンダリング

●レンダリングとは?

3Dはかせ

こんにちは、3Dはかせです。

わかばちゃん

5億年にひとりの美少女、わかばちゃんだよ!

3Dはかせ

今回はライティングレンダリングについてお話ししたいと思います。さきにレンダリングについて見ていきましょう。わかばちゃん、レンダリングとは何でしょうか?

わかばちゃん

うーん、ボタンとかを連打すること?

3Dはかせ

ちがいます。レンダリングとは、日本語で言うなら「描画」ということになります。つまり、コンピュータでデータを計算してわたしたちが直接見るディスプレイに3DCGの絵を映しだすこと、それがレンダリングです。

わかばちゃん

うーん、よくわかんない。

3Dはかせ

コンピュータで作られた3DCGのデータというのは、いわゆるデジタル・データであって、じつはたくさんの0と1からできています。3DCGに限らずすべてのデジタル・データがそうです。その状態では、人間の目にはそのデータが何を意味しているのかまったくわかりません。しかし、その3DCGのデータを適切なプログラムで処理してやると、人間の目に一枚の、あるいは連続した「絵」として見えるようになります。この処理をレンダリングというのです。

わかばちゃん

へー、そうなんだ。

3Dはかせ

レンダリングには大きく別けて2つのタイプがあります。
ひとつは「リアルタイムレンダリング」と呼ばれるものです。これの代表はテレビ・ゲームの映像です。テレビ・ゲームは、プレイヤーがコントローラーで操作すると、それに完全に連動するかたちで映像が変化しますよね。入力に対して計算と出力がほぼ同時に行なわれるのでリアルタイムと呼ばれるわけです。
そして、もうひとつが「プリレンダリング」と呼ばれるものです。これはリアルタイムレンダリングとは異なり、その場で計算されたものではなく、その映像が再生されるより以前にあらかじめ計算され出力されたものです。

わかばちゃん

ふーん。じゃあリアルタイムレンダリングのほうがスゴいんだね。

3Dはかせ

いえ、それぞれに一長一短あります。
リアルタイムレンダリングは計算の速度が重要なので、複雑で大量のデータを処理することができません。たとえば、ポリゴン数が一定以上になると計算速度が遅くなってリアルタイムでの表示ができなくなってしまいます。
それに対してプリレンダリングは、レンダリングの速度は遅いですが、複雑で大量のデータを扱うことができます。その結果、非常にきれいなCG映像が得られます。ですから、映画やアニメーション作品で使われるほとんどの3DCGはプリレンダリングなのです。

わかばちゃん

なるほど。

3Dはかせ

今回は、プリレンダリングについてお話ししていきたいと思います。

わかばちゃん

了解っす。

3Dはかせ

アニメーション作品は、パラパラマンガのように多くの絵の連続でできていることは以前お話ししましたね。それらの1枚1枚の絵を作っていくことが、レンダリングという工程であり、これが3DCGソフトウェアを使っておこなう作業の実質的に最後のものになります。レンダリングのあとはコンポジットや編集という工程になり、3DCGソフトウェアを使うことはレンダリング画像の再出力(作りなおし)作業以外には基本的にありません。

わかばちゃん

そうなんだ。

3Dはかせ

1枚の画像に対してレンダリングで要する時間は、作品によって大きく異なります。画面のサイズが大きくなればなるほどレンダリング時間も比例的に増えていきます。

わかばちゃん

ぐたいてきには何分ぐらいかかるの?

3Dはかせ

それは一概には言えません。レンダリングを行うコンピュータの性能によって全然違いますし、また、何をどうレンダリングするのかによってもレンダリング時間は大きく変わってきます。
たとえば、2000年ごろはコンピュータのCPUの速度が今よりもずっと遅かったですから、1枚の画像をレンダリングするのに30~60分くらいかかることは珍しくありませんでした。現在ならば同じデータを数分の一の時間で計算することができるでしょう。

わかばちゃん

じゃあ、速いコンピュータのほうがいいんだね!

●レンダリングを効率よくおこなおう

3Dはかせ

もちろん、そういうことになります。ただ、コンピュータというのは日進月歩でその性能が良くなっていくものなので、無理をしてそのときの最先端の高価なコンピュータを購入する必要はないと思いますよ。3DCGアニメーションのレンダリングでは複数台のコンピュータを使うことが一般的です。高価なコンピュータを何台も買うというのは財布に優しくありませんよね。モデリングなどを行うメインのコンピュータはやや性能の良いものにして、レンダリングだけをおこなわせるサブのコンピュータは、昔メインで使っていた古いものや、価格的に安いものでもいいでしょう。

わかばちゃん

何台もコンピュータがある場合は、どうやってほかのコンピュータにレンダリングさせるの?

3Dはかせ

LAN(ローカルエリアネットワーク)を使ってレンダリングさせるのです。これを「ネットワークレンダリング」と言います。もちろんコンピュータどうしがLANでつながっている必要があります。今回はそのやりかたまでは説明しません。3DCGソフトウェアごとにネットワークレンダリングをおこなうための設定には違いがありますので、詳しく知りたいかたはそれぞれのマニュアルを読んでください。

わかばちゃん

ほーい。

3Dはかせ

限られたコンピュータの能力の範囲内でレンダリングを効率的におこなうためにはちょっとした工夫が必要になります。たとえば、キャラクターと背景を別々に分けてレンダリングをするというような工夫です。

わかばちゃん

どうしてわけるの?

3Dはかせ

一般的にいってキャラクターというのはよく動きます。一方、背景というのはあまり動きません。カメラが動いている場合は別ですが、カメラがフィックス(止まっている)の場合は、たとえば背景が部屋のなかなどであれば動きませんよね。動かない背景の場合は、1枚の静止画像であっても問題ないわけです。

わかばちゃん

おお、なるほど! じゃあ、カメラを動かさないほうがいいの?

3Dはかせ

いえ、そんなことはありません。動かす必要があるところでは動かすべきです。しかし、動かしてもあまり意味が無いようなカットでは動かさないほうがいいでしょうね。

わかばちゃん

わけてレンダリングするのはいいとして、どうやってくっつけるの?

3Dはかせ

くっつける工程を「コンポジット」といいます。

わかばちゃん

コーンポタージュ?

3Dはかせ

コンポジットです。日本語で言えば「合成」ですね。何を合成するのかというと、絵を作るためのさまざまな材料をです。これらの材料のことを「素材」と呼びます。キャラクターと背景は別々の素材として分けられますね。ほかには、影だけを分けることも可能ですし、煙や火や霧といった「エフェクト(効果)」も分けてレンダリングしておいたほうがいいでしょうね。レンダリングは設定のしかたによって、そのようにさまざまな素材をこまかくわけてレンダリングすることが可能なのです。 コンポジットに関しては次回に詳しくお話しするつもりなので、今回はこのくらいの説明にとどめておくことにします。

わかばちゃん

えふぇくとの作り方を教えてほしいっす!

3Dはかせ

まことに残念ですが、エフェクトの作り方までを説明する時間はないので、それを知りたいかたは各自で勉強してください。いいですか?

わかばちゃん

うん、わかったっす。

●レンダリングのいろいろな計算方法

3Dはかせ

レンダリングの計算方法によってもレンダリング時間は大きく変わってきます。

わかばちゃん

計算方法?

3Dはかせ

はい。レンダリングには、絵の品質を高めるためのさまざまなオプションがあります。たとえば、「レイトレース」というリアルな反射や屈折をシミュレートする計算方法や、「モーションブラー」という物体が動いたときの残像を再現する計算方法があります。こういったものを追加してくことでレンダリングの品質は高まっていきますが、同時にレンダリング時間はどんどん増えていくのです。

わかばちゃん

レンダリングってむずかしいね。

3Dはかせ

難しいといえば難しいかもしれませんが、基本的には必要がないと思われる要素は省略するのがレンダリングの鉄則ですから、まずは必要最小限の要素だけでレンダリングをしてみてください。それで物足りないと感じれば要素を足していきましょう。

わかばちゃん

カレーライスとかラーメンのトッピング的な感じ?

3Dはかせ

まあ、そんな感じですね。ただし、省略しないほうがいい要素もあります。それが「アンチエイリアス」というものです。

わかばちゃん

あんきもエイリアン?

3Dはかせ

アンチエイリアスです。デジタル画像というのは小さな「ピクセル」という色のついた四角形がたくさん集まってできていますが、ピクセルとピクセルのあいだの色が極端に異なると、画像はとてもギザギザした感じ(ジャギー)になってしまいます。これを緩和して画像をなめらかで美しく仕上げるのがアンチエイリアスというものです。下の図を見比べてみてください。

わかばちゃん

おー、ずいぶんちがうのだな。

3Dはかせ

アンチエイリアスは設定のしかたによって画像をソフトにもシャープにもします。一般的にCGの画像はシャープなものが好まれる傾向がありますが、シャープであればあるほどジャギーが発生しやすくなるので、そこは少し注意が必要です。

わかばちゃん

りょーかいなのだ。

3Dはかせ

レンダリングにはちょっと特殊なものもあります。そのひとつが「トゥーンレンダリング」と呼ばれるものです。これはアニメのキャラクターのようなハッキリした線と平面的な色を再現するレンダリング方法です。もともと、アニメのなかに3DCGの画像を違和感なくコンポジットするために開発されたもので、とくに日本のテレビ・アニメでよく使われています。

わかばちゃん

わかばちゃんも見たことある! アイドルアニメのダンスのシーンとかだよね?

3Dはかせ

はい。もともとは手で描くのが難しいシーンに限って使われていましたが、最近では登場するキャラクターやメカニックなどがすべてこのトゥーンレンダリングで描かれた作品なども登場してきており、アニメ的なルックへの需要が高い日本国内においては注目度が高まっている手法だと言えるかもしれません。

●レンダリングのかなめ、ライティング

3Dはかせ

さて、ここまではレンダリングについてお話ししてきました。ここからはレンダリングとも関係の深い「ライティング」の話をしていきたいと思います。わかばちゃん、ライティングとはなんでしょうか?

わかばちゃん

何かを書くことかな?

3Dはかせ

それはwritingですね。わたしが言っているのはlightingです。まったく別ものです。3DCGにおけるライティングとは照明、つまり光によってキャラクターやオブジェクトを照らすことです。
現実世界でわたしたちは、光がなければ何も見ることができません。3DCGの世界もそれと同じで、光、すなわち「ライト」」がなくては真っ暗で何も表示されないのです。

わかばちゃん

え、でも、フツーにレンダリングできたよ?

3Dはかせ

それはですね、ソフトウェアのほうが親切にあらかじめライトを用意してくれているからです。しかし、そのライトはあくまでも作業をするうえで困らないための仮のものです。わたしたちがライトを置けば、その最初にあったライトは自動的に消えてなくなります。

わかばちゃん

そうなんだ。

3Dはかせ

まずは、3DCGで使われるいろいろなタイプのライトを見ておきましょう。ライトにはいくつもの種類があります。わたしたちは使用目的に応じてライトを選ばなければなりません。代表的なものを紹介しましょう。
オムニライト」はあらゆる方向にむかって光を放つライトです。たとえば電球のようなライトを再現するときに使います。
スポットライト」は一点からある方向にむかって円錐状に広がるライトです。その名前が示すようにステージのスポットライトをイメージするとわかりやすいでしょう。ある特定のオブジェクトや領域を狙ってライティングする場合に使います。
指向性ライト」はスポットライトに似ていますが平行光線であるのが特徴です。太陽の光などを表現する場合に使います。

わかばちゃん

太陽の光って平行なの?

3Dはかせ

太陽も星(恒星)なので厳密に言えばオムニライトのような放射状の光を放っているということになりますが、地球からの距離が非常に遠いため、その光はほとんど平行と言ってしまって問題ないのです。
あと、太陽の光を再現する際に少し気をつけたいのは、光の色は純粋な白ではなくて、やや黄色がかった白だということです。

わかばちゃん

ふーん、そうなんだ。でも白っぽく見えるけど?

3Dはかせ

それは、空が青いため、空から発せられる青い光が、太陽の黄色い光線を中和して白っぽく見せているからです。3DCGで屋外のライティングをおこなう場合、そういうことを考えながらセッティングするとリアリティのあるものになりますよ。

わかばちゃん

ライトの種類ってほかにはないの?

3Dはかせ

ありますよ。さきほど説明した3種類のライトは昔からあるものですが、比較的、近年になって開発されたライトについてもお話ししておくとしましょう。
エリアライト」は一定の面積をもったライトです。窓から入ってくる屋外の間接光や、蛍光灯の光などを再現する場合に使います。
オブジェクトライト」はオブジェクト自体が発光している状態を再現することができます。看板のネオンサインの光などを再現する場合に使えますね。
グローバル・イルミネーション」はちょっと特殊なライトですが、これは「空」の光を表現するもので、空間の四方八方あらゆる方角から光がやってくる状態を再現することができます。非常に淡く柔らかい光なので、ほかのライトと組みあわせて使うのが一般的です。

わかばちゃん

ふええ、いろんな種類があるんだねー。

3Dはかせ

ほかにもいくつもの種類のライトがあるのですが、それらをすべて紹介することはできませんので、興味があれば各自で調べてみてください。

●シャドウのいろいろ

3Dはかせ

ライティングについて考えるときは、光と「シャドウ(影)」をセットで考えるのが大切です。シャドウは光に従属するオマケではありません。光があるからシャドウがあり、シャドウがあるから光が意識されるわけで、表裏一体のものと考えるのがいいでしょう。
シャドウの扱いは3DCGではけっこうデリケートです。シャドウの品質がレンダリングの品質全体を決めると言っても言い過ぎではないのです。

わかばちゃん

へー、影ってそんなに大切なんだ。いつもあまんまり意識しないけど…

3Dはかせ

現実世界で影がどのように現れているか、それを日常生活でよく観察をしてみてください。ひとことで影と言ってもいろいろな表情があると思いますよ。3DCGソフトでもいろいろな種類の影が用意されていますので、それらを紹介しましょう。
レイトレースシャドウ」は非常にシャープな影が特徴です。あまりにもシャープで、自然界では見ることがないタイプの影なので、実際にはなかなか使う機会は無いかもしれません。
シャドウマップ」はやわらかくボケた影が特徴です。レイトレースシャドウに比べるとこちらのほうがリアリティがありますが、ボケかたが全体的に均一なので注意が必要です。

わかばちゃん

どうして注意する必要があるの?

3Dはかせ

現実の光と影をよく観察してほしいのですが、物体が設置しているとき、影は物体に近いほどシャープであり、物体から遠ざかるにつれてボケていっているはずです。

わかばちゃん

あー、たしかに。

3Dはかせ

シャドウマップは、レイトレースシャドウと比べればリアルに見えますが、しかし、今説明したような光と影の性質を再現できるわけではないからです。 そこで「エリアシャドウ」というものが登場します。これは、影がオブジェクトから遠ざかるほどにボケていくという性質をうまく再現してくれます。

わかばちゃん

じゃあ、それでいいじゃん。

3Dはかせ

ただ、エリアシャドウは正確な計算をおこなうぶん、レンダリング時間が増えてしまうという欠点があります。ですから、制作時間に余裕がある場合はエリアシャドウを使うことをオススメしますが、時間があまりない場合にはシャドウマップを使うという選択肢もあるということを覚えておいてください。

わかばちゃん

ほーい。

3Dはかせ

厳密に言うとシャドウには含まれないかもしれませんが「アンビエント・オクルージョン」というものもあります。これは、オブジェクトのへこんだ部分や重なりあった部分を暗くするもので、ライティングではなくマテリアルの一種として扱われることもあります。3DCGのオブジェクトは接地させていても浮いているように見えたり、実在感が乏しく見えたりすることがありますが、そういった見た目上の問題を比較的簡単に解決してくれるのがアンビエント・オクルージョンなのです。

わかばちゃん

便利だね!

3Dはかせ

ライティングは「ベイク」という方法によって明暗や色の情報をテクスチャに焼きつけることもできます。たとえばライトの数が多いシーンの背景などはレンダリングが重く(遅く)なりますが、ベイクによってレンダリングを軽くすることができます。これは覚えておいて損はない手法ですよ。

●ライテイングのテクニック ~基本編~

3Dはかせ

さて、ここまで3DCGソフトウェアの機能的な側面からライティングについて話してきましたが、ここからは少し視点を変えて、演出的な側面からライテイングについてのお話しをしてみたいと思います。
わかばちゃん、そもそもどうしてライティングをするのでしょうか?

わかばちゃん

暗いからじゃないの?

3Dはかせ

間違ってはいません。たしかに、ライトが無ければ真っ暗ですから、明るくするためにはライトが必要です。しかし、それだけの理由でライティングをするわけではありません。ライティングには、キャラクターやオブジェクトや環境の「魅力」を引きだし、さらに、作品を観る観客の感情を動かす力まであるのです。

わかばちゃん

なんと、ひとの心まであやつれるとは……

3Dはかせ

たとえば、わたしたちは真っ暗な夜道はちょっとこわくて不安に感じますよね? 反対に、明るい太陽の光の下では安心できるし気分的にも明るくなるものです。朝の光はすがすがしい気分になるし、夕日を見るとなぜだかノスタルジックな少し寂しい気分になります。こういったことからわかるのは、光の強弱や色や角度といった要素は、わたしたちの心理に強い影響を与えているということです。

わかばちゃん

わかばちゃんは、くもりとか雨の日ってうす暗いから、なんか元気が出ないんだよね。

3Dはかせ

そういう人は多いと思いますよ。光というのは人の心理に働きかけるものなのです。それを映像の演出に利用しない手はありませんよね。

わかばちゃん

そうだよね。

3Dはかせ

まずは、ライティングの基本的なテクニックを見ておきましょう。もっとも基本的な「三点照明」について説明したいと思います。これは元々、映画の撮影でよくおこなわれていたライテイングの方法であり、3DCGでも十分に効果が得られます。
三点照明をおこなう場合には、まず、照らすオブジェクトに対して「キーライト」を当てます。キーライトは、メインのライトです。影はしっかり出るように設定しましょう。
次に「フィルライト」を当てます。これはキーライトよりもずっと弱いライトである必要があります。フィルライトの役割は、オブジェクトの陰影部分を少し明るくして立体感を出すためのもので、あくまでも補助的なライトです。影はなるべくボカすのがいいでしょう。
3つ目に「バックライト」を当てます。バックライトはその名前の通りオブジェクトの背後から光を当てるのがポイントです。ただし、オブジェクトの真後ろに光源を置いてしまうとバックライトの効果が見えないので、キーライトとは反対方向へ少しだけ移動させるといいでしょう。バックライトの目的は、オブジェクトが背景となじみすぎて存在感が失われないように、背景から切り離すためのものです。

わかばちゃん

ライト3つだけでけっこうイイ感じになるんだね!

3Dはかせ

とても簡単ですが非常に効果的なのが、この三点照明です。ぜひ覚えて使いこなせるようになってください。

わかばちゃん

ラジャーっす!

●ライティングのテクニック ~応用編~

3Dはかせ

わかばちゃんはレンブラントを知っていますか?

わかばちゃん

天ぷら丼?

3Dはかせ

レンブラントです。たいへんに有名な17世紀のオランダの画家です。西洋の画家のなかでもレンブラントはとくに光と影のあつかいかたが天才的にうまかった人です。彼は、絵画のモチーフのなかのもっとも強調したいものに強い光を当て、それ以外の部分は暗くするという技法を生みだしました。いわば、現在の演劇や写真や映画などでおこなわれている演出としての「ライティング」という概念を、絵画のなかでやってみせた画家なのです。

わかばちゃん

そのひとが描いた絵を見たい!

3Dはかせ

残念ながら、著作権などの問題があるのでここではお見せできませんので、あとでインターネットで検索するか図書館で画集を探してみてください。一度見ておく価値はあると思いますよ。レンブラントが絵画のなかでやってみせたライティングは「レンブラント・ライト」と今では呼ばれています。キャラクターやオブジェクトに対して、上方斜め45度からやや強めのライトを当て、ほかは薄暗くして、光と陰影の強い「コントラスト(対比)」のある画面を作りだすテクニックが、レンブラント・ライトです。

わかばちゃん

おお、なんかカッコイイね!

3Dはかせ

はい、レンブラント・ライトのような強いコントラストを生みだすライティングは、画面をドラマティック(劇的)に見せます。ですから、歴史ものやSFやホラーなどの作品にとても向いています。その反対に、コントラストが弱い画面は、穏やかな雰囲気の作品に向いています。たとえば、コメディとか子供向けの作品などですね。

わかばちゃん

そっか、作品のジャンルによってもライティングは変わってくるんだね。

3Dはかせ

そうなんです。初心者はわりとそれを見落としがちなので、一段レベルの高い作品を目ざすならば、ぜひライティングにはこだわってみてください。ライティングを研究するには、やはり実写映画を観るのがいいでしょう。ライティングに注目しながら映画を観てみて、気にいったシーンがあったら、そのシーンではどのようにライトが配置されているのかじっくり考えてみるといいと思います。

わかばちゃん

うん、そうしてみる。

3Dはかせ

レンブラントに代表されるような西洋絵画の名画を観るのもライティングの勉強になるでしょう。フェルメールやラ・トゥール、あるいはダヴィッドやアングルなどはライティングが印象的な画家だと言えると思いますよ。ぜひ観てみてください。

わかばちゃん

じゃあ、そのへんのも見てみるっす。

3Dはかせ

さて、いよいよ次回は最終回です。

わかばちゃん

最終回!? わかばちゃんたち死んじゃうの?

3Dはかせ

いいえ、大丈夫です、死にませんから安心してください。

わかばちゃん

よかった……

3Dはかせ

では、今回はこれでおしまいです。わかばちゃん、今回もお疲れ様でした。

わかばちゃん

おつかれさまでした~

最終回・Post-Production【コンポジットと編集とサウンド】は11月末ごろのアップロード予定です

第8回 Post-Production

コンポジットと編集とサウンド

●コンポジットとは

3Dはかせ

こんにちは、3Dはかせです。

わかばちゃん

わかばちゃんだよ!

3Dはかせ

このWEB講座「はじめての3DCGアニメーション入門」もいよいよ今回で最終回ですよ。

わかばちゃん

そうなの!?

3Dはかせ

そうなの、じゃないですよ。そうなんですよ。

わかばちゃん

なんか、あっと言う間だったね。

3Dはかせ

これまで、この講座では3DCGアニメーションを作るために必要な工程を順番にお話ししてきました。今回は、作品を完成させるためのいちばん最後の段階である「ポストプロダクション」についてお話しします。

わかばちゃん

ポストだから、郵便と関係があるのかな?

3Dはかせ

まったく関係ありません。ポストとは「~のあと」という意味です。ですからポストプロダクションとはプロダクション(制作)のあとにおこなう作業のことです。

わかばちゃん

ぐたいてきには何をするの?

3Dはかせ

いろいろありますけど、重要なのはコンポジット編集をおこなうこと、そしてサウンドを入れることです。コンポジットに関しては前回にも少しお話ししましたよね。わかばちゃん、覚えてますか?

わかばちゃん

えーと……コーンポタージュとなんか関係あったっけ?

3Dはかせ

関係ありません。コンポジットとは合成のことであり、さまざまな素材を組みあわせてひとつの絵を作りあげることをいいます。作業は、Adobe社の「AfterEffects(アフターエフェクト)」やThe Foundry社の「NUKE(ニューク)」といったソフトウェアを使っておこないます。AfterEffectsは昔から非常に広く使われてきましたが、NUKEは近年になって映画などでよく使われるようになってきているようです。

わかばちゃん

どうしてコンポジットをするの?

3Dはかせ

理由は2つ挙げられます。ひとつは、前回もお伝えしたようにレンダリングのムダを省いて制作にかかる時間や労力を減らすためです。もうひとつは、絵のクオリティを上げるためです。

わかばちゃん

コンポジットをすると絵が良くなるの?

3Dはかせ

はい、そうなんです。3DCGソフトを使って自分が想い描く理想的な絵を作ることは、なかなか難しいものです。絵の色や明るさなどの微調整をおこないたい場合、それを3DCGソフトの中だけでやろうとすると何度も再レンダリングすることになり、時間も手間もかかります。ですから、色や明るさといった物体の「形状」とは関わりのない要素の調整はコンポジットの工程でおこなったほうがいいのです。そうすることで、時間に余裕が生まれて、結果的に絵のクオリティも上がることになります。

わかばちゃん

ぜんぶの調整を3DCGソフトでやらないほうがいいんだね。

3Dはかせ

その通りです。しかし、絵のクオリティを上げられる理由はそれだけではありません。コンポジットには3DCGソフトでは実現できない(あるいは実現が大変な)ことも、比較的簡単にできてしまうのです。

わかばちゃん

たとえば?

3Dはかせ

下の図を見てみてください。これは「ディフュージョン」という効果の例です。たとえば湿度が非常に高い状態や回想シーンなどによく使われる、ちょっと画面がぼんやりした感じの効果です。この効果などは、3DCGソフトでも作りだせないわけではないですが、わりと手間がかかるものであり、コンポジットでおこなうのであればとても簡単に作りだすことができます。

わかばちゃん

へー。

3Dはかせ

ほかにも、「グロー」や「レンズフレア」や「レンズブラー(被写界深度)」などの効果は3DCGソフトでおこなうよりもコンポジットでおこなうほうが良いでしょうね。

わかばちゃん

コンポジットでいろいろな効果をだせるんだね。

3Dはかせ

そうです。これら以外にもさまざまな効果をつけ加えることができますので、何ができるのか調べてみて、いろいろと試してみてください。

わかばちゃん

コンポジットが終わったらどうするの?

3Dはかせ

コンポジット作業が終わったカットはAVIやMOVなどの形式のムービーファイルとして出力して保存しておきましょう。その際、ファイルを圧縮しないように注意してください。

わかばちゃん

え、どうして? 圧縮したほうがファイルが軽くなっていいじゃん。

3Dはかせ

ファイルを圧縮すると容量が小さくなってたくさん保存できて便利なのですが、しかし画質は落ちてしまいます。一度、画質が落ちてしまった映像は、どうやっても元には戻りませんので、作品のマスターのデータが完成するまでは圧縮をしないようにしてください。

わかばちゃん

わかったっす。

●コンポジットのコツ

3Dはかせ

コンポジットでうまく絵を作るコツをひとつお教えしておきたいと思います。

わかばちゃん

やった!

3Dはかせ

バルールという言葉を聞いたことはありますか?

わかばちゃん

風船のことかな?

3Dはかせ

それはバルーンですね。バルールというのは、絵画でよく言われる言葉ですが、画面のなかの物体どうしの強弱の関係性のことです。

わかばちゃん

よくわかんないっす。

3Dはかせ

現実世界の物体は、わたし、つまり観察者自身に距離が近い物体のほうが印象がより「強い」と感じられますし、逆に遠くにあるもののは相対的に「弱い」と感じられるはずです。そうではありませんか?

わかばちゃん

うん、まあ、そんな気がする。

3Dはかせ

そのように自分に対してすべての物体が相対的な強弱のスケールをもっているとするなら、いま自分の目に見えている光景のなかのすべての物体も「もっとも強い」から「もっとも弱い」へむかって順番に並べることが可能だ、ということになりませんか?

わかばちゃん

えーと、そういうことになるかな。

3Dはかせ

絵を描くとき、とくに写生など現実の光景をそのまま写しとろうとするような場合、物体の形や固有色だけではなく、そのような物体の強弱の「関係性」すなわちバルールまでを正確に再現しなければ、真に迫った絵にはならないのです。わかりますか?

わかばちゃん

うーん、なんとなく。でも、そんなの、どうやって再現するの?

3Dはかせ

バルールは絵画のテクニックのなかでも高度なものに入りますが、とりあえずは「明度」と「彩度」がバルールの鍵だと頭に入れておいてください。

わかばちゃん

メイドさん?

3Dはかせ

明度です。明度とは、物体の色の「明るさ」のことです。そして、彩度は物体の色の「鮮やかさ」のことです。例外もありますが一般的に、物体は観察者に近いほどやや明度が低く(=暗く)、彩度が高く(=鮮やかに)見える傾向があります。そして、遠ざかるほどに明度は高く(=明るく)、彩度は低く(=くすんだ感じに)なっていく傾向があります。この理由は「空気」があるからです。空気は透明に見えますが、じつはこまかいチリなどがたくさん含まれているので、わずかにですが不透明なのです。

わかばちゃん

もうちょっとザックリいうと?

3Dはかせ

ザックリ言うと、手前のものは「濃く」見え、遠くのものは「淡く」見える、ということです。

わかばちゃん

あー、そういうことね。

3Dはかせ

ですから、コンポジットをおこなうときには、ぜひバルールに注意してみてください。少々誇張ぎみにしてもしてもいいと思いますよ。

わかばちゃん

うん、わかったっす。

●編集とは

3Dはかせ

さて、ここからは「編集」の話に移りたいと思います。

わかばちゃん

わかばちゃん、編集なら知ってるよ。マンガ家さんのところに原稿取りにくる人のことでしょ?

3Dはかせ

その編集とは違います。映像作品における編集というのは、いままでに作ってきたたくさんのカットを、それぞれのムダな部分を捨てて必要なところだけを残し、カットどうしをつなぎ合わせたり入れ替えたりする作業のことです。これは作品を完成させるうえでとても大切な作業です。編集で作品のクオリティが全然変わってくるからです。

わかばちゃん

そうなの?

3Dはかせ

世界でいちばん最初に作られた映画は編集されていませんでした。その作品では日常の光景をただそのまま撮影しただけでした。その後、映画は演劇を撮影するようになりますが、それは演劇の記録映像であって、現在のわたしたちが知っている「映画」とは違うものです。映画が演劇とは別の独自の芸術になったのは「編集」という技法を発明してからだと言えるでしょう。

わかばちゃん

ふーん。

3Dはかせ

編集という技法によって、映画は、時間と空間を自由自在に移動するという画期的な表現を獲得しました。これで何ができるようになったかと言うと、人間の意識を描けるようになったのです。人間の意識というのは、現実の時間や空間にしばられていません。いまこの場にいながら、頭では別の時間の別の場所のことを考えることだってできますよね。

わかばちゃん

たしかに。

3Dはかせ

映画の編集がすごいのは、まさにそれ、つまり時空間の自由な移動ができることなのです。それは、つねに舞台上でリアルタイムにストーリーが進行する演劇にはできないことでした。演劇と映画のこの大きな違いをしっかり頭に入れておいてください。 ところで、編集以外にも演劇と映画では大きく異るところがありますが、わかばちゃん、わかりますか?

わかばちゃん

えーと、なんだろう? 入場料金かな?

3Dはかせ

カメラです。演劇にはカメラはありませんが、映画にはカメラがあります。カメラがあるから編集が可能になるのです。カメラは編集と並んで映画という芸術にとって本質的な要素です。カメラについてはこの講座の第4回「絵コンテを描こう」でお話ししました。忘れてしまった人はそこに戻って読み返してみてください。

わかばちゃん

絵コンテって言葉をきいて思ったんだけど……

3Dはかせ

なんでしょうか?

わかばちゃん

編集ってさ、絵コンテの通りにつなげたらすぐに終わるんじゃないの?

●編集のテクニック

3Dはかせ

わかばちゃん、なかなかいい指摘です。たしかに、絵コンテはアニメーション作品の設計図であり、編集作業をまえもってシミュレートするものだ、とわたしは第4回で説明しました。しかし、設計図やシミュレーションは、それが完璧な結果を約束するものというわけではありません。あくまでも、大きな失敗を回避するための手段にすぎないのです。

わかばちゃん

あー、まあ、それはそうだよね。

3Dはかせ

とはいえ、編集作業の第一段階として、まずは絵コンテのとおりにすべてのカットを並べてみる、というのは大切な手順です。そして、並べおわったら最初から最後までをとおして観てみましょう。そうすると、いろいろと気づくことがあると思います。たとえば、映像のテンポが想像していたよりもずっとゆっくりに感じられて、作品が退屈に思えるかもしれません。そういう場合は、ゆっくりに感じる部分のいくつかのカットを、必要な部分は残して少し短く切ってみましょう。そうすると、テンポが速くなり、緊張感が増すはずです。

わかばちゃん

短くするとテンポが速くなるって、なんか音楽みたい!

3Dはかせ

いいところに気づきましたね。そうなんです、映像というのはある部分では音楽に似ているのです。映像にもテンポがあります。それぞれのシーンごとにどういうテンポ感で映像が展開していくのかを考えることは、編集をおこなうときにとても大切なことです。 また、編集は音楽に似ているだけではなくて、言語、つまり言葉にも似ています。「ガラスのコップが割れた」という文章は「割れた。ガラスのコップが」とも言えますよね。文章が伝えている情報に変わりはありませんがニュアンスが変わっています。こういう文法を倒置法といいますが、映像でも同じような操作が可能なのです。

わかばちゃん

たとえば?

3Dはかせ

たとえば、怪獣が迫ってくるカットのあとに驚く人の顔のカットをつないだ場合、これは流れとしては自然であり、普通の編集のしかたです。しかし、これは反対につなぐことも可能です。つまり、驚く人の顔のカットのあとに怪獣が迫ってくるカットをつなぐのです。こうすると、最初のカットでは人が何に驚いているかわからないため、答えがわかる次のカットへ移るまでの数秒間に観客の注意力を高める効果が生まれ、そのシーンはより印象的になります。

わかばちゃん

なるほど、面白いね。

3Dはかせ

このように、カットの順番を入れ替えるだけで印象が大きく変わるということがありますので、いろいろと試してみるといいと思いますよ。
そうそう、編集の理論のひとつである「クレショフ効果」というものについても少し触れておきましょう。

わかばちゃん

クレクレタコラ?

3Dはかせ

クレショフ効果です。これは、無関係のふたつの映像をつなぎ合わせることで、もとの映像がもっていた意味とは別の新しい意味が生まれてくる、という効果です。たとえば、カットAが「何かを見ている人の顔」の絵だとし、そのあとにカットBとして「おいしそうな料理」の絵をつなぐと、その編集はどんな意味を生みだすと思いますか?

わかばちゃん

うーん、「おなかすいたー、食べたいなー」みたいな?

3Dはかせ

はい、そうですね。しかし、カットAの絵はそのままで、今度は、カットBに「死んでしまったペット」の絵をつなぐと、どんなシーンに見えますか?

わかばちゃん

「ペットが死んじゃって悲しいよー」という感じかな。

3Dはかせ

そのとおりです! カットAは同じなのに、そこに映っている人物の気持ちが変わって見えるなんて不思議ですよね。人間は映像を見るとき、そこに実際に映っている事実以上のものを感じとっているのです。これは編集がもっている非常に強い力ですから、これを利用しない手はありませんよね。クレショフ効果、ぜひ覚えておいて、使ってみてください。

わかばちゃん

ところでさ、編集ってどういうソフトを使うの?

3Dはかせ

いろいろな編集のソフトウェアがありますよ。Adobe社の「Premiere(プレミア)」やApple社の「Final Cut Pro(ファイナル・カット・プロ)」などがよく使われていると思われます。が、フリーのソフトウェアもありますし、さきほどコンポジットのところで紹介したAfterEffectsで編集することも可能ですよ。

わかばちゃん

そうなんだ。

●トランジションとは

3Dはかせ

編集とは、映像を切ったりつなぎ合わせたりすることだ、と説明してきましたが、ほかにも編集でおこなう作業があります。そのひとつが「トランジション」と呼ばれるものです。

わかばちゃん

なにそれ?

3Dはかせ

通常、ほとんどの場合、カットとカットはそのまま直接的につなぎます。こういうつなぎかたを「ダイレクト・カット」といいます。それに対して、編集時にカットに変化を加えるのをトランジションといいます。トランジションというのはおもに時間や場所の変化を表現したいときに使う技法で、いろいろありますが、代表的なものは「フェードイン」「フェードアウト」「ディゾルブ」「ワイプ」です。それぞれ説明しておきましょう。

わかばちゃん

説明したまえ。

3Dはかせ

「フェードイン」というのは、真っ黒な画面からだんだんカットの絵が見えてくる効果です。たとえば、シーンのいちばん最初に使われたりします。
「フェードアウト」は、フェードインの反対で、カットがだんだん暗くなっていって真っ黒の画面になることです。シーンの終わりに余韻を残したい場合などに使います。
「ディゾルブ」は、別名「オーバーラップ」とも言います。カットAから徐々にカットBになっていくつなぎ方です。具体的にはカットAの透明度を少しずつ下げていってカットBが見えてくるようにします。
「ワイプ」は、ディゾルブに似ていますが、カットAからカットBに変わるときに、たとえば画面左のほうから右のほうへとカットAが消えながらカットBが見えてくる、というスタイルです。

わかばちゃん

ほほう。

3Dはかせ

トランジションにはそれぞれの効果がもっている「意味」があります。そして、さきほどクレショフ効果のところで説明したように、トランジションもどういう映像にその効果をかけるかで、意味が変わったり、新しい意味が出てきたりします。ですから、トランジションをおこなうときには、その効果にどんな意味があるのか、よく考えてつかうように心がけてください。
わざわざ説明しておいて言うのも変ですが、正直に言いますと、こういったトランジションはあまり多用しないほうがいいですよ。

わかばちゃん

そうなの?

3Dはかせ

はい。初心者は面白がってトランジションを多用する傾向がありますが、使い過ぎるとわけのわからないチープな編集になってしまいます。ですから、どうしても必要なとき以外は使わないように気をつけてください。映画やアニメなどを観るとき、トランジションが実際にどのように、どのくらいの頻度で使われているか注意して観てみてみるといいと思います。とくにワイプは古典的な手法であり、近年では『スターウォーズ』などごく一部の作品以外では、ほとんど使われていませんよ。

●タイトル、テロップなどの文字

3Dはかせ

ところで、編集作業には、いままで話してきたことだけではなく、もうひとつの重要な作業があります。それは、タイトルやテロップなどの文字を入れるという作業です。

わかばちゃん

どうやって入れるの?

3Dはかせ

映像編集のソフトウエアには、たいてい文字を入れる機能が備わっていますので比較的簡単にできます。しかし、そういった機能をつかってタイトルやテロップを入れてみても、なにか物足りない感じがするのも事実です。最初から用意されているフォントを使っても、ありきたりの感じになってしまって面白くありません。

わかばちゃん

じゃあ、どうすればいいの?

3Dはかせ

作品のメイン・タイトルぐらいは、自分でデザインして作ってみるといいでしょう。余裕があれば、タイトルを3DCGで作ってアニメーションをつけても面白いと思いますよ。それ以外の文字については、自分で手書きしたものをスキャニングして使ってみるとか、面白いデザインのフォントを探して使ってみるとか、ちょっと工夫してみると作品のイメージがグッと良くなりますよ。

わかばちゃん

ふーん。いままで、あんまり文字に注目したことなかったけど、ちょっと工夫してみようかな。

●サウンドの話

3Dはかせ

さて、ここまでコンポジットと編集の話をしてきましたが、ここからはサウンド、つまり音に関することをお話ししていきたいと思います。音は現代の映像作品には欠かせないとても大切な要素です。映像作品の半分は音でできている、と言ってるアニメーション監督もいるくらいです。しかし、映像というものが発明されたばかりのころは、映像にまだ音がついていませんでした。それがどんな感じだったかは、わたしたちは簡単に似たような体験をしてみることができます。たとえば、ドラマやアニメなどを観るとき、音のボリュームをゼロにしてみればいいのです。

わかばちゃん

OK、やってみる。ポチッ……。うわあ、アニメの音を消したら、内容がぜんぜんわかんないよ~

3Dはかせ

そうなんです。わたしたちが映像作品から受け取っている音の情報というのは、思っている以上に多いのです。それをよく覚えておいてください。逆にいうならば、わたしたちが映像作品に音をつけるとき、かなりたくさんの情報を音とともに乗せる必要があるということですね。

わかばちゃん

音ってすごくだいじなんだね。

3Dはかせ

音、音と言ってきましたが、映像作品における音は、具体的には三種類あります。「音響効果」「音楽」「セリフ」です。それぞれ説明していきますね。

●音響効果について

3Dはかせ

「音響効果」は、効果音やサウンド・エフェクトやSEと呼ばれることもあります。具体的には、たとえば、雨や風といった環境音を入れたり、キャラクターが歩いたり走ったりするときの音をつけたり、場合によっては現実的な音ではない光がキラキラするときのイメージ的な音などを映像につけたりすることです。音響効果は、画面のなかにある事象に音をつけていくというのが基本ですが、それだけではなく、画面の「外」の事象にも音をつけることができるというのも、とても重要なポイントです。

わかばちゃん

画面のそと?

3Dはかせ

はい。たとえば、画面の外でガシャンと大きな音がして、画面のなかのキャラクターがその音がした方向を見る、というようなストーリーに直接関係する場合の例がまず挙げられますね。ほかの例としては、夜のシーンで遠くで狼が遠吠えしている声が聞こえてきたり、あるいは室内のシーンで屋外のクルマの音が聞こえてくる、といったストーリーとは直接関係のない例です。このような画面外の音を入れていくことで、そのシーンに実際に映像で描かれている以上の空間的な広がりをもたせることができるのです。

わかばちゃん

ああ、なるほど。

3Dはかせ

…………

わかばちゃん

あのー、3Dはかせ?

3Dはかせ

…………

わかばちゃん

ねえねえ、急にだまっちゃってどうしたの!?

3Dはかせ

沈黙」です。あ、いえ、失礼。沈黙の効果を示したかったのです。いまわたしがやったように、いままでしゃべっていた人が突然だまったら、何が起きたんだろう?と思いますよね。沈黙というのは音ではありませんが、音に関係する立派な演出なのです。沈黙によって、観客をより画面に集中させたり、非常に高い緊張感を表現したりすることができるのです。

わかばちゃん

なあんだ、そういうことか。ちょっとびっくりしちゃったよ~

●音楽について

3Dはかせ

つぎに「音楽」についてお話ししたいと思います。が、音楽はそれ自体がかなり専門的な知識を必要とする分野なので、わたしでは残念ながら詳しく説明することができません。けれども、いくつか注意点を申し上げておきたいと思います。まず、鉄則として、映像作品における音楽の使用は必要最小限にすることが大切であるということが言えます。さきほど話した音響効果は、映像にはほぼ必要不可欠な要素だといえますが、じつは音楽はそうではないのです。

わかばちゃん

へえー、そうなんだ。

3Dはかせ

はい、音楽が無くても映像作品は作れます。とはいえ、音楽があったほうがいいな、と思うシーンもきっとあると思いますので、そのような場合には音楽を入れましょう。そのときに大切なのは、音楽が映像をじゃましないことです。音楽というのは人の意識に対して非常に強い働きかけをしますので、自己主張の強い音楽を映像にのせると、映像が音楽に負けてしまって作品が台なしになってしまう場合があり、注意が必要ですよ。

わかばちゃん

わかった、気をつける。

3Dはかせ

自分が作った映像のできが不安なとき、ついつい音楽に頼ろうとしてしまうことがあります。しかし、できの悪い映像に素晴らしい音楽がついたところで、その作品が素晴らしいものになるわけではないということは、よく認識しておきましょう。

わかばちゃん

了解っす。

●アフレコとプレスコ

3Dはかせ

さて、最後に「セリフ」の話、すなわち「アフレコ」と「プレスコ」についてお話ししてこの講座を終わりにしたいと思います。アフレコというのは「アフターレコーディング」の略で、映像ができてからそれに合わせてセリフの声を録音することをいいます。一方、プレスコは「プレスコアリング」の略で、アフレコとは逆に映像を作るまえにセリフを録音するやりかたをいいます。

わかばちゃん

どっちがいいの?

3Dはかせ

一長一短ありますね。日本のアニメではアフレコが圧倒的に多いです。アメリカのアニメーションではプレスコが多いといいます。ただ、わたしたちがやっているような3DCGアニメーションの場合は、キャラクターがしゃべる演技をするときにリファレンス(参照するもの)があったほうが断然アニメーションをつけやすいので、プレスコでまず全部のセリフを録音するのがいいでしょう。

わかばちゃん

じゃあ、プレスコがいいんだね。

3Dはかせ

とはいえ、プレスコは映像が無い段階で台本と絵コンテをたよりにして演技をおこないますので、作者が思い描くイメージどおりのセリフの演技がなかなか得られないという場合もあります。ですから、プレスコはあくまでもリファレンスとして割りきってアニメーションを作ったうえで、編集後の完成直前にアフレコをおこなって、よりイメージに近い演技を録音するというのが、手間がかかりますが理想的なやりかただと言えるかもしれません。

わかばちゃん

えーっ、2回も録音するの?

3Dはかせ

はい。一例ですが、最初のプレスコでは、作者自身や作者の友人などが演技をおこなって、最終的なアフレコではプロの声優や声の演技に慣れている役者に演じてもらうという方法もあります。そうすることで、制作費をあるていど節約できるからです。しかし、もし制作費に余裕があるのであれば、最初からプロなどの技術がしっかりした人に演じてもらったほうがアニメーションのクオリティが上がるのは間違いないですね。

わかばちゃん

わかばちゃん、じつは声優になりたいんだよね。

3Dはかせ

えっ、3DCGアニメーションを作りたいんじゃなかったんですか?

わかばちゃん

だってさ、3DCGアニメーションって大変なんだもん。それに比べて声優さんは、なんか楽しそうだなーって。

3Dはかせ

いやいや、声優も大変ですよ。どんな仕事でもそうですが、なんとなく外から眺めて印象だけで「面白そー、楽しそー」って思いこむのは危険ですから気をつけたほうがいいですよ。

わかばちゃん

そうなの?

3Dはかせ

そうです。

わかばちゃん

うーん、わかった、じゃあもう少し3DCGアニメーションを続けてみよっかな……

3Dはかせ

どうしても声優をやりたいのであれば、自分で作った3DCGアニメーションに自分で声をあてればいいんじゃないんですか?

わかばちゃん

あっ。そうだよね。それだ! そうしよう!

3Dはかせ

さてさて、わかばちゃんの悩みも解決したことですし、このあたりでこのWEB講座「はじめての3DCGアニメーション入門」を終了させていただきたいと思います。

わかばちゃん

うえーん、なんかさみしいよお。

3Dはかせ

そうですね、ちょっと寂しいですが、しかたがありません。

わかばちゃん

二期は? 二期はないの?

3Dはかせ

なんですか、二期って。
それでは、わかばちゃん、8ヶ月間、助手見習いどうもお疲れ様でした。

わかばちゃん

おつかれさまでした~

3Dはかせ

皆さん、さようなら! いつかどこかでまたお会いしましょう!

わかばちゃん

サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ!



【筆者からのメッセージ】
最後まで読んでいただきありがとうございました。このWEB講座はわたし自身が企画を立てたもので、3DCGアニメーションを作ってみたいと考えている初心者のかたや学生さんなどを読者に想定して書かせていただきました。書きはじめる前はスラスラと楽に書けるんじゃないかと考えていましたが、いざ書いてみると意外に難しく、思っていた以上に苦労しました。原稿を書く作業をとおして、これまでの自分の3DCGアニメーション制作を省みてそこから本質的かつ普遍的なものを取りだすという貴重な経験ができたということに加え、自分のやりかたでは足りないと思える部分は書籍などで先人たちの知恵をいろいろと参照させていただいて、結果的にわたし自身も学んだことがたくさんありました。読者の皆さんには、このWEB講座を他山の石として活用していただければとても嬉しいです。

粟津順